社説:景気とアベノミクス 首相戦略の誤算と限界
毎日新聞 2014年11月18日 02時30分
7〜9月期の実質国内総生産(GDP)の速報値は、年率で前期比1.6%減で、2四半期連続の減少だった。個人消費が4月の消費増税の反動減から回復が遅れ、設備投資も低迷している。国内需要の不振が鮮明となっており、景気は失速し、後退局面に入った可能性もある。
◇家計への配慮足りず
GDPが落ち込んだ最大の原因は、消費の回復が大きく遅れていることだ。消費増税前の駆け込み需要の反動で、個人消費は4〜6月期に前期比5%減と大きく落ち込んだが、7〜9月期も0.4%増にとどまった。自動車や家電など価格が高めの商品の販売が振るわない。
政府、日銀はデフレ脱却に向け2%の物価上昇を目標としてきた。アベノミクスの第一の矢である異次元の金融緩和で、円安が進み、食材を中心に輸入品の値上がりが続いた。物価は上がったが、原料価格上昇で実現した「悪い物価上昇」だ。これが消費不振の底流にある。
円安で輸出産業を中心に企業業績は回復し、給料やボーナスは上向いた。ただ、値上げと消費増税の分には追いつかず、給料は目減りしている。中小や零細企業は賃金もなかなか上がらない。こうした影響で消費者は財布のヒモを締めている。
10月末の日銀の追加金融緩和で、円安は一段と進んでいる。来年にかけてスパゲティ、カップめん、冷凍食品などの値上げが目白押しだ。消費の低迷が長引く可能性もある。
4月の消費増税時に、食料品など生活必需品への軽減税率の導入が見送られるなど、低所得者や家計に配慮する政策は後回しにされてきた。そのツケが回ってきたと言える。
設備投資が2四半期連続で減少し、低迷していることも安倍政権にとって大きな誤算だ。
アベノミクスは、企業の収益を引き上げることを優先課題としてきた。業績が回復すれば設備投資と賃金が増え、経済が本格的な回復軌道に進むと説明されてきた。
輸出企業に有利な円安が続いているにもかかわらず、輸出は伸び悩んでいる。日本の製造業の製品の国際競争力の低下や、コスト削減を狙った工場の海外移転が背景にある。この結果、企業の生産が伸びず、設備投資に結びついていない。
政府・日銀は、物価が上昇軌道に乗れば将来のインフレを見越して設備投資は加速するとの道筋を描いていた。だが、そうした動きは広がっていない。人口が減っている国内への投資拡大に企業は慎重なためだ。
上場企業の業績は全体としては好調だ。9月中間決算の集計を見ると、売上高が前年同期比約5%増、経常利益も同10%程度増えており、2008年のリーマン・ショック直前の好景気の水準に回復している。
◇空回りした成長戦略
アベノミクスの第三の矢「成長戦略」で、法人税の大幅引き下げや国家戦略特区での大胆な規制緩和が打ち出された。安倍首相は特区を「岩盤規制を打破するドリル」と位置づけ、資金、人材、企業を集めて経済再生を主導すると力を込めた。しかし、意気込みとは裏腹に、企業の投資を呼び込むような具体策は見えておらず、期待感はしぼんでいる。
アベノミクスの第二の矢である「財政出動」の効果にも誤算が生じている。安倍政権は、4月の消費増税の影響を下支えする経済対策として、歳出総額5.5兆円の13年度補正予算を執行し、即効性があるとして公共事業に1兆円を注ぎ込んだ。しかし、人手不足と資材高騰の中で、景気浮揚効果に広がりがあったかというと疑問だ。
安倍政権は国民の信を問うため、衆院を解散し、総選挙を実施するという。だが、「解散すべき時なのか」との疑問の声が与党内からも上がっている。
解散・総選挙を行えば来年度当初予算案の編成は1カ月近く遅れる。政府は今年度補正予算を先行するというが、補正予算で慌てて景気をテコ入れするよりも、政策の誤算と限界を精査、検証すべきだ。そして、物価高で賃金が目減りしている影響の大きさをはかり、低所得層や非正規労働者に目配りして消費を喚起する政策に軸足を移すべきではないか。景気への処方箋をきちんと描きつつ、当初予算案を編成する時だ。
安倍首相は、景気情勢を踏まえ来年10月の消費税の再増税を先送りする方針だ。ただ、将来世代へのツケ回しをやめ、持続的な社会保障制度を構築するには、増税が避けて通れない道であることに変わりはない。
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