2013年8月14日水曜日

安倍政権の外交姿勢 「中国だけでなく、日米関係に悪影響を及ぼす可能性がある」 「(対外関係の改善には)もはや手遅れだ」 (英紙フィナンシャルタイムズ)

東京新聞
安倍政権の外交  「日米にも悪影響」英紙がコラムで苦言    
2013年8月14日 朝刊

 麻生太郎副総理の「ナチス発言」など失言が続く安倍政権の外交姿勢について、十三日付の英紙フィナンシャルタイムズが「中国だけでなく、日米関係に悪影響を及ぼす可能性がある」とのコラムを掲載した。

 執筆したのは、同紙コラムニストのギデオン・ラックマン氏。ラックマン氏は、安倍晋三首相が細菌兵器の実験などに当たった旧日本軍の七三一部隊を連想させる数字が機体に書かれた自衛隊機に乗ってピースサインをしたり、海上自衛隊のヘリコプター空母型護衛艦に、中国に戦時中派遣された艦艇と同じ名称が付けられたことなどを挙げ、日中関係の緊張の高まりにつながると懸念。「欧米の同盟国をこれ以上なく困惑させている」と言及した。

 ラックマン氏は、安倍政権の強気な外交姿勢が「緊張が高まる地域で国益を模索する日本の外交官たちにとっては悪夢だろう」とし「安倍首相と首相側近らは十五日の靖国参拝を見送るようだが、(対外関係の改善には)もはや手遅れだ」と警告した。

 日米の安全保障関係にも触れ「米国の日本に対する安全保障が緩められれば、東シナ海の外交問題が世界大戦を引き起こすリスクはなくなる。代わりに日本が独自の軍隊を持つこともあり得る」とし「アジアにおける戦略的均衡の変化には最大限の注意が求められる」と指摘した。


JBPRESS
Financial Times
アジアの平和を脅かす日本の失言・失策癖
2013.08.14(水)
 (2013年8月12日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)

日本のパブリックディプロマシー(対市民外交)は滑稽さと不穏さの間を行ったり来たりしている。この国はここ数カ月、外交政策上の失言や失策を繰り返している。これらはアジアの近隣諸国に最大限の嫌がらせをし、西側の同盟国に最大限の困惑をもたらすことを意図したかのようにも見える。

 先週もそうだった。日本は、第2次世界大戦後に建造したものの中では最も大きな艦艇を公開した。名目上は駆逐艦だが、実質的には空母である。

「いずも」にナチス発言に「731」・・

 海軍力の強化は、中国の軍事力増強への理にかなった対応だと言ってよいが、アジアの海域で緊張が高まっている時期だけに、日本は注意深く事を運ぶべきだ。

 そう考えると、一体どんな天才が、この新しい船に「いずも」という、1930年代の中国侵略に参加した日本の軍艦と同じ名前をつけたのか?

 中国は早速、これは日本の意図的な挑発だとかみついた。「いずも」という名前がほかに何もない時期につけられたのであれば、そのような批判はもっと簡単にはねつけられるだろう。しかし、このほんの数日前には日本の麻生太郎副首相が、日本の平和憲法改正への取り組みに適した手本をナチスに見いだせるかもしれないと発言したと報じられていた。

 「静かに推進する必要がある」と麻生氏は述べた。「ある日気付いたら、ワイマール憲法がナチス憲法に変わっていた。誰も気付かないで変わった。あの手口に学んだらどうか」

 意外なことではないが、この発言が伝えられると非難の声がわき起こり、官房長官は釈明せざるを得なくなった。「安倍晋三内閣として、ナチス政権を肯定的に捉えるようなことは断じてないということは明らかにしたい」

 つい数カ月前には、安倍晋三首相自身の失策が反発を招いた。航空自衛隊の練習機の操縦席に座り、右手の親指を立てた姿で写真に収まったのだが、その機体には「731」という数字がくっきりと描かれていた。731と言えば、生物学や化学の人体実験を行ったことで知られる旧帝国陸軍の部隊の番号だ。

 筆者はこの写真が公開された5月に韓国に滞在していたが、筆者と話をした韓国人はほぼ全員、これは意図的な挑発だと確信していた。筆者はその時、それはいくら何でも考えすぎだと思っていた。しかし今になってみると、そうとは言い切れない気もする。

 その後、韓国の朴槿恵(パク・クネ)新大統領は、これみよがしに中国を公式訪問した。就任したら中国よりも先に日本を訪問するという、4人の前任者による慣例を破ったのだ。

 戦時の過去に対する日本政府の態度は、今週木曜日にさらに試されることになる。8月15日には保守系の政治家が、日本の戦没者に敬意を表するために靖国神社に参拝することが多い。

 神社には戦争犯罪人とされた14人が合祀されており、参拝時にはアジアのほかの国から強い反発の声が上がるのが常だ。

 今年は安倍氏も主要閣僚も参拝を控えるようだが、政権のその他のメンバーの多くは参拝することになりそうだ。

 しかし、靖国参拝でいくらか自制しても、既に生じてしまったダメージを取り消すことはできない。西側諸国の日本の友人たちも危機感を抱いている。

西側諸国の友人も日本のナショナリズムに危機感

 東京に長く住み、政府ともパイプを持つある人物は、安倍政権を「1945年以降の日本で最もナショナリスティックな政権」と評している。またこの人物によれば、安倍氏の周辺には「第2次世界大戦で間違っていたのは、日本が負けたことだけだ」と考えていると思わせるような人も交じっているという。

 このような考え方は、中国のみならず、日本が防衛面で依存している米国をも遠ざけてしまう恐れがある。実際、米国政府の高官はこのところ、中国のナショナリズムと同じくらい日本のナショナリズムを懸念しているようだ。

 バラク・オバマ大統領の1期目にアジア担当の国務次官補を務めたカート・キャンベル氏は本紙(フィナンシャル・タイムズ)に先日寄せた記事の中で、太平洋で戦争が始まるリスクを心配していると述べ、次のように指摘した。「東京も北京も・・・国内のナショナリストの感情におもねるつもりでいる」

 ますます危険度を増しているこの地域で日本の利益を守ろうとしている多くの有能な外交官たちにしてみれば、安倍内閣のお粗末なパブリックディプロマシーは悪夢であるに違いない。このことが特に悔やまれるのは、日本再生を目指す安倍氏のアイデアには方向性が正しいものも含まれているからだ。

「アベノミクス」はリスクをはらんではいるものの、長らく先送りされてきたデフレ対策だ。また、自国の防衛のためにもっといろいろなことができるように戦後の憲法を改正しようという、まともな議論もある。

 世界第3位の経済大国である日本が自らの安全保障を米国にこれほどまでに依存しているという現在の状況は、中国の力が強くなるにつれて、ますます特異なものとなっている。

 現在の体制は日米双方に負担を強いている。この体制のせいで、日本は米国への依存度について過度に神経質になったり腹を立てたりしているし、一方の米国人は、日本の政権によって米国が中国との戦争に巻き込まれてしまうのではないかと不安を覚えている。

 東シナ海での領有権を巡る小さな争いが世界戦争を引き起こすリスクをもたらさないように、日本に対する米国の安全保障を弱めれば、今よりもバランスの取れた体制になるだろう。またそうすれば、日本は自らの軍事力を増強できるようになるし、そうするよう奨励される可能性もあるだろう。

これほど深刻かつ危険でなければ・・・

 アジアでそのような戦略バランスの変化が起きれば、中国、韓国のみならず、それ以外の国々も心穏やかではいられなくなるはずだ。従って、そのような状況には最高度の外交手腕を駆使した繊細な対応が必要になる。

 ところが、今日の日本の閣僚たちは、大日本帝国時代の過去については非建設的な曖昧さに徹し、ナチスや拷問を行った部隊がかかわる奇異な失言や失策まで犯している。事態がこれほど深刻でなければ――そして危険でなければ、ほとんど滑稽なくらいだ。


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