東京新聞
<はたらく>非正規化進む図書館職員 労使交渉で待遇改善
2014年5月9日
公立図書館で働く職員の非正規化が進んでいる。財政難などを理由に、自治体が人件費を削減していることが背景にある。正規職員を増やさずにサービス低下を防ぐため、嘱託員制度を導入した東京都町田市立図書館では、正規職員と同等に働く嘱託員が、労働組合をつくって待遇改善に取り組んでいる。 (福沢英里)
「辞めると言ったら驚いてくれて…。私って図書館にいてもいい人間なんだって、うれしかった」
町田市立図書館で昨夏まで、非常勤の主任嘱託員として働いた野角(のずみ)裕美子さんは、かつての同僚から渡された手紙を今も大切に保管する。「いていいとか、いけないとか、そんな思いをさせる職場ではいけない」との思いを忘れないためだ。
野角さんは二〇〇一年に採用され、最初の約五年は正規職員の補助業務を担った。その後、正規のみで担当していた中高生向けの本の選定や、資料調査の仕事も任されるように。ただ、何年たっても月額約十八万円の待遇は変わらなかった。
待遇が悪くても図書館で働きたいと、嘱託員には全国から熱心な若者らが殺到した。連帯して権利を守る必要性を感じ、野角さんを中心に〇七年、労組を結成。八千八百円のベースアップや、無給だが産前産後休暇などを勝ち取った。
周辺の図書館では、民間委託や指定管理者制度の導入が進んでいた影響もあった。「図書館を軸にした地域のネットワークがあれば、さまざまな情報発信ができる。自治体による図書館直営や、そこで働く職員の権利を守り、サービス向上も両立させないと」と野角さんは強調する。
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サービス多様化や正規職員の定員見直しなどで増えたのが、嘱託員と呼ばれる非常勤職員だ。身分は地方公務員法で定められた「特別職非常勤職員」。学校医など特定の学識経験に基づき、臨時に雇われるのが通例だ。だが、「特別職」として、週三十時間以上働く消費生活相談員などがいる自治体も増えている。当初の制度設計は、一年契約、更新四回までの有期雇用で、勤務日数は月十六日と正規職員より少ない。
町田市教育委員会は事実上の雇い止め対策として、嘱託員の設置要項に「特に必要と認めるときは更新回数を超えて採用できる」との規定を盛り込んだ。〇四年以降は選考条件に司書資格も加えた。嘱託員は〇六年からの五年間で九十四人となる一方、正規職員は〇七年度の定員見直し後、五十五人に減った。
当時、同市の図書館長だった手嶋孝典さん(64)は「正規を増やさずにサービス水準を維持、向上するには嘱託員制度の導入が効果的。今後は任期の定めのない『短時間勤務公務員制度』の創設が必要」と主張する。
「非正規公務員」(日本評論社)の著書がある、地方自治総合研究所研究員の上林(かんばやし)陽治さんは「公立図書館で働く三人に二人は非正規。正規に代わって非常勤が基幹化している」と指摘する。大分県中津市の学校図書館で、非常勤の司書として三十年以上働いた男性が、退職金が支給されないのは違法として起こした訴訟で、昨年末に福岡高裁は市に千九十二万円の支払いを命じる判決を出した。
この例を挙げて「自治体が非正規の待遇改善に本腰を入れないと、図書館の質の低下は免れない。訴訟のリスクも負う」と指摘する。
◆交流を深める勉強会も
町田市の嘱託員以外にも、公立図書館には臨時職員や派遣社員、アルバイトなどさまざまな形態の非正規労働者が働く。名古屋市で二月、図書館で働く非正規職員らが集まって交流を深める勉強会が開かれた。
テーマは「非正規の力で職場を改善できたこと」。「月一回、非正規職員による会議が開かれるようになった」「返却ミスを二重チェックで減らした」など、グループに分かれて活発な意見交換があった。主催した「公共図書館員のタマシイ塾」のメンバーで、愛知県内の公立図書館で働く女性は、「各地の非正規職員がつながる場をつくることで職場や処遇改善の一歩になれば」と話した。
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