福井新聞
特定秘密 運用基準決定 強権力は知る権利を奪う
(2014年10月15日午前7時30分)
政府は、国の機密漏えいに厳罰を科す特定秘密保護法の運用基準と政令を閣議決定した。昨年12月、自民、公明両党の強行採決で同法を成立させ国民が反発、内閣支持率は急落した。「知る権利」侵害への懸念が強いからだ。政府は有識者会議や国民の意見を聴くパブリックコメントも実施したが、大半は官僚が練った原案のままだ。チェック機関も独立性が疑われる。国による恣意(しい)的な運用に依然不安が残る。これで国民理解は得られるだろうか。
運用基準は、特定秘密の指定や解除、秘密を扱う公務員らの適性評価で守らなければならないルールを示した。行政機関が指定できる対象は防衛、外交、スパイ活動防止、テロ防止の4分野。潜水艦や航空機、武器・弾薬の性能、衛星で収集した情報など55項目を列挙している。
留意事項として「必要最小限の情報を必要最低限の期間に限り指定する」と抑制的な運用を示している。しかし、それは国の裁量で都合の悪いものは恣意的に秘密指定できることになり、「留意」という表現法を含め、規定は形骸化する恐れがある。
政府は7月に開いた情報保全諮問会議で、報道機関のトップや弁護士、学者らから意見を聴いた。1カ月間のパブリックコメントも実施し、国民の懸念や不安払拭(ふっしょく)に努めたという。これを基に、素案は計27カ所を修正したと強調した。
だが知る権利や報道・取材の自由、さらに適性評価でのプライバシー保護などをめぐる懸念は解消されていない。結局は政府の強権力による「独断専行」との印象を薄めるガス抜きである。安倍首相の言う「丁寧な説明」とは何なのか。
当然のことながら、外交や防衛分野などで、国家の安全保障上、重要な秘密がある。そのことを知る国民の権利について憲法には明記されていないが、政府は素案見直しで、知る権利を「憲法第21条の保障する表現の自由や、憲法のよって立つ基盤である民主主義社会の在り方に結び付いたもの」と位置づけた。
そうであるなら、「内閣府独立公文書管理監」が秘密指定などの「検証・監察・是正」を行うというのはいかがなものか。あくまで政府内部の仕組みにすぎず、実効性が疑わしい。客観的な第三者機関が役割を担うべきだ。そもそも重要な情報を保護するには、できる限り秘密の数を減らすことで国民はその重さを理解するのではないか。
安倍政権による法制の背後に同盟国・米国の強い要請があろう。その米国は情報自由法や機密解除に強い権限を持つ国立公文書館の情報保全監察局が機能し、政府の恣意的運用に歯止めを掛けている。市民が政府機関に直接秘密の解除を求めることができ、秘密の解除を請求する制度もある。
米国の秘密保護に関する大統領令の前文に「政府の活動を国民が知ることこそ民主主義の原則」と明記されている。12月の法施行まで、国民の視点で国会論議すべきことは多々ある。
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