2014年10月12日日曜日

従軍慰安婦問題 : 米国内はどう受け止めたか 「吉田証言のウソ」歴史修正主義者が利用 東アジア専門家、ラリー・ニクシュ氏 (毎日新聞)

毎日新聞
従軍慰安婦問題:米国内はどう受け止めたか 「吉田証言のウソ」歴史修正主義者が利用 東アジア専門家、ラリー・ニクシュ氏
毎日新聞 2014年10月11日 東京朝刊

 戦時中の慰安婦問題をめぐり、米議会の下院は2007年7月に日本政府に謝罪を求める決議を採択した。慰安婦を強制連行したとする吉田清治氏(故人)の証言記事を、朝日新聞が今年8月に取り消したことで、日本では河野洋平官房長官談話(1993年)の見直し論も出ているが、米国はどう受け止めているのか。米議会調査局のスタッフとして下院決議に関わった東アジア専門家のラリー・ニクシュ氏(74)に聞いた。【聞き手・ワシントン及川正也】

 −−現在の日本の議論をどう思いますか。

 ◆朝日新聞の誤報は非難されてしかるべきだ。取り消しが遅すぎた。ただし、吉田証言が慰安婦問題の国際世論に影響を与えた決定的な要素だったという主張は、ほとんど正当化されない。歴史修正主義者は、河野談話を攻撃し、慰安婦の強制的な募集がなかったと主張するために、吉田証言のウソを利用している。国際世論には、吉田証言をはるかにしのぐ複合的な証拠が影響している。

 −−下院外交委員会は06年9月にも同様の決議案を可決したものの、本会議に上程されず廃案になりました。委員会可決前の06年4月にあなたが作成した議員用メモは吉田氏に言及しています。その時点で虚偽との認識はなかったのですか。

 ◆あのメモは93年2月の雑誌に掲載されたジョージ・ヒックス氏(豪ジャーナリスト)の記事から引用した。当時、経験豊富な研究者が吉田証言に疑問を持っていることを私は知らなかった。メモは約1カ月と短い期間で作成したが、それでも疑問が示されていることを見つけ出すべきだった。知っていたら引用しなかった。

 −−証言への問い合わせはありましたか。

 ◆議会調査局に議員の事務所から照会は1件もなかった。07年4月に出した改訂版のメモでは吉田氏の本の記述を削除した。吉田証言に疑問を持ったか、より信頼できる証拠を発見したからだ。06年メモでは1ページにも満たなかった慰安婦の証拠に関する章が、07年メモでは6ページになった。

 −−慰安婦問題の論点は何ですか。

 ◆私は強制的募集の問題に焦点を絞ることにした。それが日本での議論の核心だったからだ。米国の公文書では、多くの慰安婦が業者にだまされて参加したことを示している。もし看護師とか工場労働者とかの仕事と言われ、慰安所に到着して性的奉仕するためだったと気付いたら、その時に詐欺が強制的な誘拐に変わると私は考えている。

 −−ビルマ(現ミャンマー)の慰安所で、外出の自由や、兵士と結婚した例を記載した米公文書もあります。

 ◆その記述は他の慰安所での虐待行為に関する慰安婦の証言とかなり対照的だ。慰安所の状況がさまざまだったことは疑いないが、総体的な状況はむごいものだった。

 −−慰安婦問題の克服は依然として日韓関係の課題です。

 ◆私は07年メモで、河野談話とアジア女性基金について肯定的な見解を示し、アジア女性基金を拒否した韓国政府の対応を批判した。一方で、強制がどこにもないという主張は不正確であり、存在する証拠文書とも一致しない。もし、安倍晋三首相、朴槿恵(パククネ)韓国大統領、オバマ米大統領が「河野談話は歴史的に正しい」と言い合えれば、歴史問題の解決に向かって大きな前進が図れると思う。

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 ◇米下院慰安婦決議

 2007年7月に採択。日本政府に「明白で明確な方法で公式に認め、謝罪」することを求めた。決議作成に関わったアジア・ポリシー・ポイントのミンディ・コトラー所長は毎日新聞に「吉田証言は全く参考にしていない」と語り、当時下院外交委員会上級スタッフだったデニス・ハルピン氏は「吉田証言や朝日報道が審議に影響したことは全くない」としている。

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