2015年2月1日日曜日

家族への謝罪要求、経歴暴露…イスラム国事件で後藤さんを攻撃する“クズ”たち(梶田陽介 LITERA) : タレントのデヴィ夫人 元航空幕僚長の田母神俊雄 「週刊文春」(文藝春秋)2月5日号

LITERA
家族への謝罪要求、経歴暴露…イスラム国事件で後藤さんを攻撃する“クズ”たち
2015.01.31

 膠着するイスラム国人質事件。事態が長期化するなかで、再び自己責任論が盛んになり始めた。たとえば、タレントのデヴィ夫人が29日に自身のブログに書き込んだ内容がネット上で話題となっている。

「不謹慎ではありますが、後藤さんに話すことが出来たらいっそ自決してほしいと言いたい」

「そもそも殺害されたと言われている湯川遥菜さんと後藤健二さんがイスラム国に捕まっていなければこんなことは起きなかったのです」

 しかも、デヴィ夫人は後藤さんの母親まで、こう辛辣に批判した。

「たびたび後藤さんのお母様がマスコミに登場していますが、私は腑に落ちません。(略)自分の息子が日本や、ヨルダン、関係諸国に大・大・大・大迷惑をかけていることを棚にあげ、ひたすら安倍首相に『あと24時間しかありません。助けて下さい。』と訴えているのは、どうかと思います」

 いったいこの人は何をいっているのだろう。後藤さんは加害者ではなく、日本人が見向きもしない戦争の悲惨さを報道してきたジャーナリストなのだ。戦地の子どもたちの置かれている状況を熱心に伝えようとし、今回、シリア入りしたのも先に拉致された湯川さんの救出のためだった。インドネシア大統領の第3夫人として贅沢三昧したあげく、クーデターが起きて夫が失脚したとたんに逃げた人間に、どうして「自決」などと言う資格があるのか。

 ところが、このデヴィ夫人の発言に対して、なんとネット上では、「よく言った!感動した」「大勢殺した死刑囚との交換となったらまともな日本人なら自殺するよ」「助けるどころか死刑でもいいと思う」など、賞賛する声があがっているのだ。

 しかも、デヴィ夫人だけではなく、人質の家族にまでバッシングを向ける声はどんどん広がっている。後藤さんの母に対しては「意味が分からない」「いいからもっと謝れ」の大合唱を浴びせ、29日に人質の解放を訴えるメッセージを公開した後藤さんの妻に対しては、あるニュースサイトに、こんな心ないコメントが多数寄せられていた。

「日本政府に迷惑かけてることを謝罪が先だ 家族をメディアの注目から守るためだのどこまでも自分勝手な一家」

「いつまでくだらねえゲームやるつもりだ?マジで全員死ねよ」

「後藤健二が死ぬことを切に願う。これが国益」

 しかも、ネトウヨたちは石堂さんと後藤さんの名字が異なることを理由にして、後藤さんが「在日」であるという無根拠な情報を流布させはじめた。これに乗っかったのが、元航空幕僚長の田母神俊雄で、先日、本サイトでも指摘したように、ツイッターで「ネットでは在日の方で通名を使っているからだという情報が流れていますが、真偽のほどは分かりません。マスコミにも後藤健二さんの経歴なども調べて流して欲しいと思います」などと、元自衛隊幹部とは思えないような発言をしたのだ。

 また、後藤さんについてはツイッターで〈後藤健二は、反日極左や反日カルトのテロ集団の巣窟【西早稲田2-3-18】の「日本基督教団」の信徒だ!〉などという意味不明のカキコミも広がっている。

 後藤さんにはたしかに、10数年ほど前に日本基督教団の教会で洗礼を受け、キリスト教の信徒となっていたという報道があった。だが、日本基督教団は左翼でもカルトでもなく、宗教団体法が施行された1940年の翌年、福音主義教会30余派の合同により誕生した歴史のあるキリスト教団体だ。一般には日本最大級のプロテスタント系組織として知られ、有名なところでは石破茂地方創生相も日本基督教団系の教会で洗礼を受けている。

 ところが、上記住所にあるキリスト教系団体のひとつが「在日外国人の人権委員会」などを設置していたため、ネトウヨやヘイト団体が教団を標的にし始め、昨年7月にはヘイト団体がデモをかける騒動にまで発展している。いまや上記の住所は“ネトウヨの定番ネタ”にまでなっているのだ。

 もちろん、これに対しては全国キリスト教連絡協議会などのキリスト教10団体が「教会共同声明」を発表し、「(ヘイトデモの)主催者は『反日の牙城(日本基督教会館に突入!)』と謳い、日本キリスト教会館ならびにキリスト教視聴覚センター(AVACO) を『朝鮮カルト』と名指しました。この主張は、全くの事実誤認にもとづく名誉毀損行為です」と強く抗議しているが、無教養なネトウヨたちは「教団=朝鮮カルト団体」などという“完全なデマ”を鵜呑み。そのデマを根拠にして、後藤さんに「反日」「在日朝鮮人」などとレッテル張りをしているのである。

 後藤さんへの攻撃はネットだけではない。たとえば、「週刊文春」(文藝春秋)は2月5日号で、「『10分300万円』に命を賭けた 後藤健二さん 書かれざる数奇な人生」と題した記事を掲載。後藤さんが、過去にボディビルジムでコーチの仕事をしていたとし、ジムのオーナーという人物による、後藤さんとの「500万円の金銭トラブル」があったというコメントを載せた。さらに同じ人物からは、「彼は風俗店をやっていたのです」という発言をひきだしている。これがネットに転載され、案の定、ネットの一部で“祭り”となっている。

 だが、この文春のコメントは、ジムオーナーなる人物ただひとりの証言に依るもので、事実かどうかは疑わしい。よしんば本当だとしても、今回の事件とは何の関係もない。本人が拘束されているこの状況で後藤さんにとっては反論の余地がなく、文春のやり口はあまりに姑息だろう。

 しかも、最悪なのがタイトルにもなっていた「10分300万」だ。実は、これは後藤さんが喋っていたことでもなんでもない。わざわざ「映像が番組で流されれば十分間で二百万から三百万ほどのギャラをもらえますから」と言う「面識のあるフリージャーナリスト」のコメントを持ち出して、明らかに後藤さんが金目的でイスラム国に接近したとのトーンで文春が書いただけなのだ。だが、彼らはフリーの戦場ジャーナリストがどんな苛酷な経済状況におかれているのかを知らないのか。イスラム国への取材で「二百万から三百万ほどのギャラ」をもらおうとするのが守銭奴だというなら、文春の社員は麹町でふんぞりかえって、いくら給料をもらって、いくら経費を使っているのか。

 そもそも、準備もアポもすべて自分で行ったうえで、社員が行かない「危険な場所」で取材をするフリーのジャーナリストに、同じジャーナリズムの世界で生きている人間が平気でこういった誹謗中傷を浴びせるような真似をすること自体が信じられないのだ。

 こうした後藤さんバッシングの背景にあるのはやはり、この国独特の「個人は国に迷惑をかけるな」という意識だろう。

 勝手な事をするな、国の方針に黙って従え、そして、国民は上からいわれたことをやってればいい──。それがどんなに倫理や正義感やに基づいた行動であろうと、国家の意に反したら、必ず叩かれる。

 2004年のイラク人質事件での人質バッシングについて、米「ニューヨーク・タイムズ」が「深層には、この島国を何世紀にもわたって支配し続けてきたヒエラルキー構造がある。お上(okami)にたてつくことが、人質たちの罪となったのだ」と報じたが、その頃から状況はさらに悪化しているのかもしれない。

(梶田陽介)

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