2015年2月28日土曜日

生き物に異変!原発事故の「不都合な真実」 無視できない変化が起きている (塩田春香 東洋経済) : 『原発事故で、生きものたちに何がおこったか。』永幡 嘉之 (著, 写真)


東洋経済
生き物に異変!原発事故の「不都合な真実」
無視できない変化が起きている
塩田 春香 :HONZ 2015年02月28日

数日前、庭木の枝に小さな鳥の巣を見つけた。お椀型の巣は空っぽで、内側をシュロなどの繊維、外側はコケや地衣類で覆われ、クモの巣で枝に接着されている。

「メジロかな?」

かわらしい緑色の小鳥の姿を思い浮かべて笑顔になりかけたとき、不安に襲われた。コケや地衣類は放射能に汚染されやすいと聞くが、それを巣材に使った小鳥は、どうなってしまうのだろう?

ある写真家がみた原発事故

そんな疑問をもったとき、書店で見かけたのが本書『原発事故で、生きものたちに何がおこったか。』永幡 嘉之 (著・写真)である。子ども向けの写真絵本だが、解説もしっかりとしていて、読みごたえがある。著者は山形県在住の写真家で、原発事故で被害を受けた福島県の阿武隈山地にも昆虫調査で足を運んでいた。

本書のタイトルを見てまず想像したのは、「放射線を浴びた生物に奇形や生殖能力への影響が出たことがショッキングな写真でたくさん紹介されている」……というものだったが、違った。

“テレビ局の記者から、「角のまがったカブトムシが見つかっています。これは放射線の影響ですよね」という質問を受けたことがありました。脱皮したばかりの昆虫は体がやわらかく、何かがふれただけで形がゆがんでしまいますから、ふつうにおこることなのですが、事故の直後は、何でも放射線の影響ではないかとうたがう空気がありました。”

あおることなく、淡々と、冷静に、原発事故後に起きた自然環境の変化が写真とともに解説される。

本を開いて最初に目に飛び込んでくるのは、「春うららか」という言葉がぴったりな、里山の写真。新緑のさえずりが聞こえてきそうだ。だが、これが原発事故の被害を受けた地域であることを知れば、受け止め方は一変する。――こんなに美しい場所を、わたしたち人間は汚してしまった。

(略)

行間からにじみ出るような、静かな怒り。事故後、まだ人間が最優先だったときにチョウを採集してまわった研究者を、白い目で見ていた人もいたかもしれない。だが、それは研究者としてするべき使命だった。同じように、これからを生きていかなければならない子どもたちに向けて、「自分で考える」本書を送り出すことも、著者にとっては写真家としての使命だったのだろう。

春が、永遠に春であるために

農薬汚染を告発したレイチェル・カーソンの名著『沈黙の春』に、こんな記述がある。

“春がきたが、沈黙の春だった。いつもだったらコマドリ、スグロマネシツグミ、ハト、カケス、ミソサザイの鳴き声で春の夜は明ける。そのほかいろんな鳥の鳴き声がひびきわたる。だが、いまはもの音一つしない。草原、森、沼地――みんな黙りこくっている。”


原発事故で汚染された地域には、ずっとにぎやかな春が来てくれるだろうか。そのために、わたしには何ができるのだろう。

キーボードを打つ手を止めて、机の上に転がっている小鳥の巣を眺めながら、ふと思い出した言葉がある。

“Today Birds,Tomorrow Men(今日の鳥は、明日の人間)”

原発事故で、生きものたちに何がおこったか。
原発事故で、生きものたちに何がおこったか。




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