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「持ち家の夢」しぼむ派遣法改正、市場二極化-住宅ブームに打撃も
Bloomberg 3月24日(月)2時0分配信
3月24日(ブルームバーグ):横浜市に住む鈴木桃子さん(28)は昨年12月、5年間正社員として勤めたフェリー運航会社を辞めた。現在は別の会社で派遣社員として働きながら、翻訳家を目指す。年収は240万円と4割減。以前は「自分の家を持とうと考えたこともあった」というが、「派遣社員なので難しい」とあきらめかけている。
政府が今国会に提出した労働者派遣法改正案が成立し、来年4月に施行されると、派遣労働者が一段と増加。低金利を背景としたマンションブームの陰で、持ち家取得を断念する若い人が増える可能性がある。
現在は一つの職場で派遣社員の受け入れ期間は最長3年。改正案では3年ごとに入れ替えれば、派遣社員を無期限に雇うことが可能となる。政府は派遣雇用の安定化などが目的としているが、日本弁護士連合会の山岸憲司会長は1月、例外的にしか認められないはずの「派遣労働の固定化につながる」との反対声明を発表した。
改正案はまた、派遣期間が終わった後に人材派遣会社が企業に直接雇用を申し入れることなどを義務付けているのに対し、富士通総研の上席主任研究員・米山秀隆氏は、「実際に正社員への道が開けるのは難しい」と指摘。派遣法改正は住宅市場にも影響を及ぼし、ローンを組んで家を買える正社員と不安定な非正規労働者との間で、「住宅市場の二極化が加速化していく」との見方を明らかにした。
アベノミクス効果で大企業を中心に業績は回復し、一部企業でベースアップが実現。失業率は昨年12月に3.7%と6年ぶりの水準まで低下した。半面、厚生労働省の調査では昨年の非正規社員数は過去最高の約1906万人で、全体に占める割合は36.6%。ドイツ証券の大谷洋司アナリストは20年までに50%まで増えると見込んでおり、「派遣社員の増加は住宅市場に大きな打撃だ」と懸念を示した。
所得格差
国土交通白書によると、家庭を築く世代である30歳代の持ち家比率は08年で39%と、83年の53.3%から大きく低下した。住宅生産団体連合会は30歳代前半の持ち家比率が20年に25%まで落ち込むと予測する。マッコーリーキャピタル証券のシニアアソシエイトアナリストの石野なつみ氏は、所得の減少や晩婚化の進展もあり、「持ち家より賃貸住宅に住む人が今後増える」と話す。
新築マンションの最大の購入層である30-40歳代では、所得格差は拡大している。厚労省の資料では、正社員の平均月給は30-34歳の約27万円から40-44歳で約34万円に増加するのに対し、非正規社員は約19万円でほぼ横ばい。
住宅金融支援機構の住宅ローン「フラット35」の適用金利は1.48%(返済期間20年以下)と過去最低となり、住宅販売の下支え要因。多くの銀行は派遣社員という理由だけで住宅ローン申し込みを拒むことはしていないというが、「非正規雇用者は正社員と比べて借りにくい」と住宅情報のSUUMOは指摘する。
賃貸市場
新築の持ち家取得が難しい人々が増えている中で、住宅業界では賃貸住宅に堅調な需要を見込み、力を入れる企業も出てきた。最大手の大和ハウス工業は中期経営計画(13-15年度)で主力6事業のうち賃貸住宅について、15年度に8000億円の売上高目標を掲げた。これは事業別で最大規模で、戸建て住宅(3850億円)の2倍以上となる。
集合住宅事業推進部・営業統括部の山下正記部長は、晩婚化の傾向もある中で、「単身女性が好むような賃貸住宅を供給しようというのが戦略だ」と話す。積水ハウスは過去3年間で賃貸住宅事業の売上高伸び率が28%に達し、戸建て住宅の14%を上回った。阿部俊則社長は「賃貸住宅はまだまだ増えると思う」という。
富士通総研の米山氏は、大手の住宅メーカーやデベロッパーが中古物件の「リフォーム事業に力を入れている」と述べた。
ハウジングプア
NPO法人ビッグイシュー基金のリポートによると、高度成長期の日本は中間層が拡大し、政府は政策融資や公団住宅建設など持ち家促進策を進めた。一方、90年代のバブル崩壊後は中間層が縮小し続け、住まいに困窮する人たちがますます増える可能性があるとしている。
生活困窮者の自立を支援する都内のNPO法人「もやい」。94年から支援活動をしてきた稲葉剛理事長は、当初は年輩の日雇い労働者が対象だったが、過去の法改正で派遣労働が解禁された影響で「04、05年ごろから20-30歳代の非正規労働者の相談が増え、今は3割を占める」と話す。
稲葉氏は、派遣労働者は「雇用が不安定で、いつでもハウジング・プアに陥る可能性がある」と分析。失職してアパートも借りられず、ネットカフェや脱法ハウス暮らしを強いられる人も多いという。
米山氏は、低家賃の公営住宅や家賃補助など安全網拡充が必要と提言している。東京都住宅供給公社によると、都営住宅の新築は00年以来凍結され、昨年11月の応募倍率は28.5倍に達しているのが実情だ。
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