2013年10月16日水曜日

「真に憎悪すべきは戦争です」 「勝ち組や負け組がはっきりする社会はだめだ」 「強い人が弱い人を徹底的にいじめる社会はよくない。」 (やなせたかし)

東京新聞
従軍 一度も発砲せず 反戦こそ正義 やなせさん    
2013年10月16日 朝刊

 「正義の味方は、格好悪い方がいい」

 四年前、都内にあるやなせたかしさんの自宅で四時間にわたって行ったインタビューには、平和を願う深い信念がにじんでいた。

 本紙連載「この道」でも従軍体験を基に戦争反対を強く訴えた。一度も発砲することのないまま、目の前で人が死に、飢えに苦しめられた。弟の千尋さんは海軍の特攻潜水艇「回天」に乗り込み、二十一歳で亡くなっている。「真に憎悪すべきは戦争です」

 一九四〇年に召集され、陸軍の野戦砲部隊に配属。四一年春、暗闇にまぎれて中国・福州へ上陸したが敵部隊はおらず、戦闘にはならなかった。軍務の間を縫って紙芝居を作り、農村地帯を巡演したこともあったという。

 戦況の変化に合わせて徒歩で転戦する際には、迫撃砲や小銃による敵襲で目の前で何人か死んだ。「全くの無駄な兵隊で、なんの役にも立ちませんでした」と皮肉まじりに振り返っている。

 敗戦は中国大陸で迎えた。その時「お国のために戦え」と勇ましく部下に命令していた上官が敵国の軍人にペコペコしている姿を見て、正義の意味に疑問を感じた。

 やなせさんが生み出したアンパンマンの顔は真ん丸いあんパン。格好は決してよくないし、顔が水にぬれると力もなくなってしまう。それでも困っている人に出会うと、自分の顔を食べさせ、ぼろぼろになってでも人を助ける。主人公のその生きざまに、やなせさんは、正義の本当の意味をたとえたのだ。

 派遣切りによる失業者の増大や社会の格差に話題が及んだ時には「勝ち組や負け組がはっきりする社会はだめだ」と言い切った。

 「アンパンマンは『ばいきんまん』を徹底的にやっつけない。生き物は、ばい菌と戦いながら強く成長する側面もある。強い人が弱い人を徹底的にいじめる社会はよくない」と語気を強めた。

 東日本大震災後は、被災地の子どもたちを励まし続け、昨年と今年のアンパンマン映画では「希望」や「復興」をテーマにした。戦争体験から生き抜くことの大切さを知るからこそ、家族や友だちを亡くし、家を失った子どもたちに決して希望がないわけではないと語りかける。「泣かないで/くじけないで/ぼくがここにいるよ」と。 (紙山直泰)




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