2014年3月15日土曜日

教科書採択:初の是正要求 にじむ教育の国家主導(毎日新聞) / 文科相是正要求 道理ゆがめる「恫喝」だ 不当な政治介入を撤回せよ(琉球新報)     

毎日新聞
教科書採択:初の是正要求 にじむ教育の国家主導
毎日新聞 2014年03月14日 13時52分(最終更新 03月14日 14時04分)

沖縄県竹富町教育委員会が八重山採択地区協議会(石垣市、竹富町、与那国町)の決定とは異なる中学公民教科書を使用している問題で、下村博文文部科学相は14日、地方自治法に基づき、竹富町教委に対して地区協決定の教科書を使うよう是正要求した。この「直接是正要求」を出した背景には、国家主導で教育政策を進めたい安倍政権の意向もある。

市区町村への是正要求は本来、都道府県を通じて実施する仕組みだ。国家権力が小さな自治体を追い詰める事態を避けるためで、国が直接要求できるのは「緊急事態」に限られる。それでも文科省が直接要求に至ったのは、2013年3月に義家弘介政務官(当時)が竹富町に出向き、採択地区協議会の決定に従うよう指導した経緯に象徴される「国による教育政策の主導姿勢」がある。文科省はその後も繰り返し指導したが、国の方針と地元事情の板挟みとなった沖縄県教委が判断できず、留保するしかなかった。文科省はこれを「緊急事態」と判断し「振り上げた拳」の置き場として、直接要求を選んだ。

一方で、こうした動きに抑制的な動きもある。今国会で審議予定の教育委員会改革関連法案では、自民党と公明党の協議で、国の関与強化は、いじめ自殺などの場合に限定された。今回のような「国権発動」は地方自治体への「脅し」との批判も免れない。政府には今後も慎重な判断が求められる。【福田隆】


教科書採択:竹富町、直接是正に反発 不服申し立て検討へ
毎日新聞 2014年03月14日 22時37分

文部科学省は14日、沖縄県竹富町教育委員会が八重山採択地区協議会(石垣市、竹富町、与那国町)の決定とは異なる中学公民教科書を使用している問題で、地方自治法に基づき、竹富町教委に対して地区協決定の教科書を使うよう是正要求した。国が直接、市区町村に是正要求するのは初めて。ただ、是正要求に罰則はなく、竹富町教委は反発を強めており、国地方係争処理委員会への不服申し立ても検討する意向だ。

地区協は2011年8月、教科書無償措置法に基づき、保守色の強い育鵬(いくほう)社の中学公民教科書を採択。しかし、竹富町は「沖縄の米軍基地問題の記述が少ない」などとして同意せず、地方教育行政法が教科書の採択権限を地元教委に与えていることを根拠に、東京書籍版の使用を決め、独自に使ってきた。文科省は「採択地区内で同一の教科書を使うよう定めた教科書無償措置法違反」と指摘。昨年10月、沖縄県教委に対して同町教委に是正要求するよう指示したが県教委は「慎重な対応が必要」と結論を先送り。このため、今回の直接是正要求になった。

同町では12年以降、町ゆかりの篤志家の寄付金で教科書を準備。今回も町内の8校分計46冊を用意、配布する準備を進めている。

文科省の直接是正要求に対し、竹富町の地元関係者からは反発と困惑の声が広がった。

竹富町教委の慶田盛安三教育長は「教育行政が最も忙しいこの時期に是正要求を出す意図が分からない。教育への政治介入とも受け取れる。学校は落ち着いているのにかえって混乱を招くだけ」。竹盛洋一教育委員も「国にこちらの言い分を聞くつもりが全くないのは遺憾。強引に従わせようとする手法に怖さを感じる」と憤った。

町教委は24日の定例会議で、国地方係争処理委員会に不服を申し立てるかどうかなどを検討する意向。東京書籍版を新年度も引き続き使用する方針に変わりはないとし、沖縄県教委とも意見交換するという。

一方、沖縄県教委は戸惑いを隠せない。竹富町に対し、頭越しに直接是正要求されたことに県教委の諸見里明教育長は県庁で記者団に「残念だ。19日の会議で今後の対応を検討したい」と述べるにとどめた。

今回の問題の背景に、教科書無償措置法と地方教育行政法の二つの法律が採択権を認めていることから、政府は今国会に教科書無償措置法改正案を提出し、地区協の決定に一本化する方向で法整備を進めている。【井本義親、福田隆】

【ことば】是正要求

地方自治法では、国は都道府県に対し、市区町村に是正要求を出すよう指示することができる。事態が改善せず緊急対応が必要な場合に、国が直接、市区町村に是正要求を出せる。同法に基づく是正要求は、都道府県経由では住民基本台帳ネットワークシステムに参加しなかった東京都国立市と福島県矢祭町に出された2009年の計2例があるが、直接要求の事例はない。要求に不服がある場合、国地方係争処理委員会に審査を申し立てることができる。


琉球新報 社説 
文科相是正要求 道理ゆがめる「恫喝」だ 不当な政治介入を撤回せよ
2014年3月15日

八重山教科書問題で下村博文文部科学相が竹富町教育委員会への是正要求を強行した。 手続き上、是正要求の後は違法確認訴訟しかない。下村氏は「法治国家として行使はあり得る」とその可能性もちらつかせる。小さな自治体にとり訴訟費用の負担は重い。訴訟に耐えられないと見越した上での「恫喝(どうかつ)」であろう。

国が個人の活動を民事訴訟で訴え、表現を萎縮させようとする「スラップ訴訟」にも似た発想だ。特定の政治思想の意向に従わない自治体を、強引に押さえつけ、屈服させようという意図がにじんでいる。道理をゆがめる「恫喝」は、断じて容認できない。

不審な経過

そもそも竹富町教委の行為は正当な教育行政だ。それをあたかも違法であるかのように政府は印象操作している。

経過を振り返る。石垣・竹富・与那国3市町の教科書を話し合う八重山採択地区協議会会長の玉津博克石垣市教育長は2011年6月、教科書調査員を独断で選任できるよう規約を改正しようとして反対された。役員会で選任することになったが、玉津氏は役員会を開くことなく独断で委嘱した。

その調査員も、報告書では、保守色の極めて強い育鵬社版の中学・公民の教科書について「文中に沖縄の米軍基地に関する記述がない」などと難点を指摘。複数を推薦した中に育鵬社版は入れていなかった。

だが同年8月23日の採択地区協議会は、玉津氏の主導で育鵬社版を選ぶよう答申した。しかし竹富町教委は8月27日、選考過程における前述の不審な点を挙げ、育鵬社版でなく東京書籍版を選んだ。

一方、石垣・与那国2市町教委は育鵬社版を選定。3市町教委は8月31日に採択地区協議会を開き、再協議したが、決裂した。

9月8日、今度は3市町教育委員全員で協議し、多数決で東京書籍版を選んだ。だが文科省は「全員協議はどこにも規約がない」と、この選定を無効とした。

規約の有無を言うなら、玉津氏の調査員選任も規約にない手法だった。その点は問わないのか。

政府は同年11月、「自ら教科書を購入して生徒に無償で給与することは、無償措置法でも禁止されるものではない」との答弁書を閣議決定している。竹富町教委の行為は合法だと閣議で決めたのだ。それが自民党に政権交代した途端、違法になるというのか。

明らかな不公平

そもそも無償措置法は協議を経て同一の教科書を採択するよう求めている。前述のように8月31日の再協議は決裂した。協議が整っていない以上、3市町のどちらも無償措置法に適合するとは言い難い。金井利之東大教授は「是正要求を出すなら3市町を対象とすべきで、竹富のみとするのは明らかに不公平だ」と指摘する。 

竹富町教委が配布した教科書はもちろん教科書検定を通っている。下村氏の強硬な態度をみると、あたかも検定を通らない違法な教科書を配布したかのようだ。

竹富町の教育現場では過去2年、問題は起きていない。仲村守和元県教育長によると、問題行動は皆無で学力は県内トップ級、科目によっては全国一の県をも凌駕(りょうが)する。静穏に教育が行える環境ができているのだ。子どもたちに無用な混乱をもたらしているのはむしろ文科省の方ではないか。

今回の是正要求は地方教育行政法(地教行法)に基づくものではなく、地方自治法に基づく。
地教行法適用は「児童生徒の教育を受ける権利が侵害されている」場合に限られる。竹富では検定に通った教科書が無償で配られているのだから、何ら権利は侵害されていない。適用できないから、ハードルの低い地方自治法を使うという発想だ。是正要求自体が目的化している。

教科書問題の解決より国の権限誇示が動機なのだろう。教育への不当な政治介入は撤回すべきだ。


沖縄タイムス
竹富町「東京書籍」継続へ 是正要求に反発
2014年3月15日 05:50

【東京】八重山地区で異なる中学校公民教科書が使用されている問題で文部科学省は14日、教科書無償措置法に基づいた採択をしていないとして、竹富町教育委員会に地方自治法に基づき是正要求を出した。下村博文文科相が同日の会見で明らかにした。国が市町村に直接要求するのは初めて。町教委の慶田盛安三教育長は「法律上、採択権は町教委にある」と反発。これまで全教育委員も同様の見解を示していることから、新年度も「東京書籍版」の教科書を継続使用する可能性が高い。

竹富町教委は24日に委員会を開き、国地方係争処理委員会への審査申し出なども含め、今後の対応を検討する。

是正要求は、新年度から八重山採択地区協議会が答申した保守色の強い「育鵬社版」に統一させるのが狙い。竹富町教委は新年度も本年度同様、東京書籍版の教科書を購入する手続きをとっている。

是正要求を受けると自治体側は対応を見直す法的義務が生じるが、従わなくても罰則はない。異例の措置を取ったことについて下村氏は「新年度が迫っているのでぎりぎりの時期。緊急性がある」と説明した。

竹富町教委へ是正の要求を指示された県教委が、5カ月間審議を継続していることに対して下村氏は「法律上の義務を負っているにもかかわらず、要求しなかったのは極めて遺憾。重大な事務の怠りである」と指摘。14日、県教委へも指導する通知も送った。

地方教育行政法に基づき竹富町教委は、育鵬社版ではなく東京書籍版を採択。無償措置法に基づかない場合は国の無償給付の対象外となるため、寄付金で独自に教科書を購入して2012年度から生徒に配布している。

無償措置法では、共同採択地区内で同じ教科書を採択しなければならないと定めていることから、菅義偉官房長官は同日の会見で「法治国家なので一日も早く従ってもらいたい」とし、政治介入には当たらないとの認識を示した。

下村氏は竹富町教委の動向を見守るとしつつ、竹富町教委が要求に従わない場合の違法確認訴訟について「適切に判断をしていくことがあるかもしれない」と述べた。

国の要求は残念

諸見里明県教育長 竹富町教委に対する国からの是正要求の指示への対応については、県教委において慎重に検討していたところ。今回、竹富町教委へ直接是正要求が行われたことは残念に思う。対応については、引き続き県教委で検討していきたい。




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