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— ハフィントンポスト日本版 (@HuffPostJapan) 2015, 2月 13
波佐場 清 ジャーナリスト
ワイツゼッカー氏と安倍首相の落差
投稿日: 2015年02月13日 16時27分 JST 更新: 2015年02月13日 16時27分 JST
(略)
■東郷和彦教授の論考
ワイツゼッカー演説に類するものは日本にはなかったのか。この点、元外交官(条約局長、駐オランダ大使など)の東郷和彦・京都産業大学教授がその著書『歴史認識を問い直す―靖国、慰安婦、領土問題』(角川oneテーマ21)のなかで、次のような指摘をしているのが、私にとっては目からうろこだった。
(略)
▽村山談話は包括的・直観的・無前提な形で国家の行為をとらえ、それについて謝罪している。このようなやり方は、近代国家では例を見ない。
▽ワイツゼッカー演説は徹底して個別的・分析的・条件付きである。たとえば個別具体的な犠牲者をリストアップ。ナチス以外のドイツ人について「罪はないが責任はある」とし、「全員が過去を引き受けなければならない」などとしている。
東郷教授はさらに、ワイツゼッカー演説の思想的背景としてヤスパース、村山談話の精神的背景としては鈴木大拙との関連性について論考を加えている。その詳細は著書に譲るが、ここで明らかなのは、日本の場合、一つには戦争責任の所在を曖昧にやり過ごしてきた結果が、いま大きなツケとして回ってきているということである。
■安倍首相の「戦後70年談話」
いま、気になるのは安倍首相の歴史への向き合い方である。具体的には安倍首相が8月に予定している戦後70年にあたっての「安倍談話」の中身である。安倍首相はこの間、これに関連して次のようなことを言ってきた。
◇2013年4月の参院予算委員会
「安倍内閣として、言わば村山談話をそのまま継承しているというわけではない。これは戦後50年に村山談話が出され、そして60年に小泉談話が出されたわけであって、これから70年を迎えた段階において安倍政権としての談話をそのときに、いわば未来志向のアジアに向けた談話を出したいと今既に考えている」(4月22日)
「侵略という定義については、これは学界的にも国際的にも定まっていないと言ってもいいんだろうと思うわけだし、それは国と国の関係において、どちら側から見るかということにおいて違う」(4月23日)
◇2014年3月14日、参院予算委員会
「歴史認識については、戦後50周年の機会には村山談話、60周年の機会には小泉談話が出されている。安倍内閣としてはこれらの談話を含め、歴史認識に関する歴代内閣の立場を全体として引き継いでいく」
◇2015年1月25日、NHKの討論番組
「村山、小泉談話、安倍政権としてこうした歴代の談話を全体として受け継ぐ考えは、すでに何回も申し上げた通り。安倍政権としてどう考えているという観点から談話を出したい。
このような世界をつくっていくかという未来に対する意思を書き込みたい。いままでのスタイルそのまま、下敷きとして書くことになれば、いままで使った言葉を使わなかった、新しい言葉が入ったという、こまごまとした議論になっていく。そうならないように70年の談話は新たに出したい」(要旨=朝日新聞より)
◇同年1月29日、衆院予算委員会
「村山談話、小泉談話については閣議決定されているものであり、我々は全体として受け継いでいる。先の大戦の反省の上に戦後70年どういう国をつくってきたのか、今後未来に向かってどういう国をつくっていくか発信していきたい。
(戦争の教訓は)まさに多くの国民の命を失い、アジアの方々にも多大なご迷惑をおかけした」(朝日新聞より)
こうして振り返ると、安倍首相の発言は微妙にぶれている。戦後70年の安倍談話に関しては、このところ、村山談話、小泉談話を「全体として受け継ぐ」という言い方で一貫させているが、「全体として」とは引き継がない部分もあるということなのかどうか。いずれにしても、村山、小泉談話にある「植民地支配と侵略」「痛切な反省と心からのお詫びの気持ち」といったキーワードが周辺国との関係でどうなるかが大きな焦点になるのは間違いない。
■落差
戦後70年談話に向けて安倍首相が「未来志向」「未来についての意思」「未来に向かって...」といった具合に、「未来」を強調しているのも気がかりである。
東郷和彦教授は、さきの著書で次のようなことも書いている。
▽歴史認識問題との関連で、「未来志向」ということを日本側から言い出すことは、禁句だと考える。被害者の立場にたてば、「未来志向」と加害者が言えば、それは「過去を忘れましょう」と言っているのと同じように聞こえる。
▽歴史に認識に関していえば、「未来志向の未来」とは、中国や韓国が日本に向けて送るべき言葉なのである。
同感である。ワイツゼッカー氏と安倍首相の落差を改めて感じてしまう。
(おわり)
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