2015年7月20日月曜日

絶望せずにモノ言う勇気を (ノンフィクション作家 澤地久枝さん『朝日新聞』試練にたつ民主主義) : 手遅れにならないように、私は私の小さい旗を掲げ続けます。


絶望せずにモノ言う勇気を    ノンフィクション作家 澤地久枝さん

 少数の意見にも耳を傾け、多様性を重んじるのが民主主義だと思っています。安保法制に反対する世論は強まっているのに、安倍政権は聞く耳を持たず、衆院を通過させようとしています。これは民主主義の否定ですね。選挙民の負託を受け、政治に携わる自覚と謙虚さが全く感じられません。

 安倍晋三首相は民主主義を軽んじているから4月未の米議会演説で法案を「夏までに成就させる」と勝手に期限を切って宣言したのでしょう。オバマ大統領にもがっかりですね。民主主義国家のトップとしての自負心があるなら、首相の勝手な約束を「まず国民にきちんと説明すべきでしょう」といさめるべきだったと思います。

■憲法無視は非道

 その後の衆院憲法審査会では、自民党が推薦した長谷部恭男・早大教授も含め、3人が安保法制を「憲法違反」だと述べました。しかし、安倍政権は理性と知性に裏打ちされた、この大切な指摘にも耳を傾けることなく、無理な憲法解釈で突っ走ろうとしています。

 憲法99条には「天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ」と書かれています。憲法は政治家の恣意的な暴走に歯止めをかけるためにあります。政治家が憲法を無視したら、それは非道の政治です。

 旧満州・吉林で敗戦を迎えた14歳の時から私は国を信用していません。ソ連軍が入ってきて、父親の仕事はなくなり、住んでいる場所を追い出され、生きる道筋が吹き飛びました。「一夜のうちに国は消えてしまった。国というものは、なんてあてにならないんだろう」と思いましたね。1年間の難
民生活を経て日本に引き揚げてきました。その体験を通して、二度と戦争はしてはならないという思いが変わることはありません。

 1942年6月のミッドウェー海戦について調べた時に、海戦で亡くなったアメリカ軍人の息子が成人してベトナム戦争で戦死した事実に出会いました。憲法9条を掲げる日本は戦後70年、一人の外
国人も殺さず、また一人の日本人も戦死することなく、平和国家として歩んできました。一人の自衛
隊員も米国主導の「テロとの戦い」に巻きこまれる形で亡くなって欲しくありません。

■平和国家の信用

 もし戦闘に巻きこまれれば、敗戦後に築き上げてきた「日本は戦争をしない国」という世界的な信
用は失われてしまいます。

 アフガニスヌンで長年にわたって診療や干ばつ地域の農水路建設支援を続けている「ペシャワール会」の現地代表で医師の中村哲さんは、一貫して自衛隊の海外派遣に反対し、丸腰で貢献を続けています。現地で高い信頼を得ている中村さんは、日本が集団的自衛権の行使に突き進んだ場合、日本人であるがゆえに攻撃の対象になることを懸念しています。これまでの献身的な仕事を台無しにする政治がまかり通っています。

 「アベ政治」への抗議の意思を示すため、18日午後1時にポスターを一斉に掲げる運動への参加をネット上で呼びかけています。私が思いついた、政党や組織とは全く関係のない全国的な呼びかけです。俳人の金子兜太さんが「アベ政治を許さない」という色紙の文字を書いてくれました。呼びかけ人として作家の瀬戸内寂聴さん、憲法学者の小林節さんら120人以上が集まってくれました。

 ひどい政治状況を見ていると、絶望感に襲われますが、絶望したら終わりです。これから参院の審議もある。ひとり一人のカは弱くても、声が広がっていけば世の中は確実に変わります。私が若いころは、女性が子育てをしながら仕事をすることは御法度だったけと、今では当たり前でしょ。

 権力にモノを言うことに勇気が試される時代です。でも権力は放っておくと悪さをしますから。手遅れにならないように、私は私の小さい旗を掲げ続けます。
                                   (聞き手・古屋聡一)

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