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安倍イズムを読み解く 首相は国家社会主義者
2014年5月12日
Kyodo Weekly 2014年5月12日
共同通信社の柿崎明二論説委員は4月23日、同社の情報研究会で講演し、安倍晋三首相が祖父の岸信介元首相と同じ「国家社会主義者」と指摘した。安倍首相が集団的自衛権の行使容認を目指し、靖国神社を参拝する裏にある本音について、これまでの言動などから解説した。
講演「読解 安倍イズム」の要旨は次の通り。
▽本人に届いていない批判
安倍晋三首相は、自分を保守と位置付けているが、祖父の岸信介元首相と同じ「国家社会主義者」の傾向がある。選挙で勝った政治勢力がある程度の独裁性をもって政策を展開できるという「政治万能主義」の面もある。
憲法改正、教育改革、集団的自衛権の行使容認、靖国神社参拝や従軍慰安婦問題に関する河野談話見直しなどの一連の政策や言動を安倍イズムと名付けた。
去年とことし、二つの象徴的なメッセージが発表された。一つはことしの建国記念日を迎えるにあたってのもの、もう一つが昨年の「主権回復・国際社会復帰を記念する式典」での式辞で、いずれも「美しい国」「誇りある国」という言葉が散見される。また、式辞では占領期のことを「最も深い断絶であり、試練」と位置付けサンフランシスコ講和条約の締結を「自分たちの力によって再び歩みを始めた日」「日本を日本自身のものとした日」などとしている。
靖国神社に参拝することや従軍慰安婦の強制性を認めた河野談話を見直すことは「美しさ」や「誇り」を守ることであり、憲法改正や教育改革にこだわるのはそれらが占領期につくられたものだからだろう。
憲法解釈の変更によって集団的自衛権の行使を容認することに対して「立憲主義を否定している」という批判があるが、本人の耳に届いていないのではないか。作家の百田尚樹氏との対談本で、現代の民主主義国家の憲法は、あるべき国の姿や理念を書き込むもので、政治権力を縛るものではないと明言している。立憲主義を「古色蒼然としたもの」と批判してさえいる。
▽東京裁判は勝者の断罪
安倍首相は集団的自衛権の行使容認について初当選直後から問題意識を持っていた。1995年11月の衆院委員会で、「真剣に議論をしていかなければいけないのではないか」と提起している。
面白いのは99年4月の衆院特別委員会の発言で、集団的自衛権の行使は全面的に禁じられてはいないという岸首相の答弁を紹介した上で「当時は法制局長官ではなく総理大臣自らがこの重要な問題について見解を、自分の責任をとるという覚悟で述べている」とした。さらに翌年5月の衆院憲法調査会では集団的自衛権が行使できない状態を「わが国が禁治産者であることを宣言するような極めて恥ずかしい政府見解」としている。
禁治産者のような状態なのだから首相がリーダーシップをもって変えていかなければならないという考え方を持っていたことが分かる。
次に歴史認識だが、昨年3月の衆院委員会で、東京裁判について「勝者による断罪」と述べている。東京裁判は米国が主導した。さらに日本はサンフランシスコ講和条約で判決を受諾している。その東京裁判を一方的、不公平と位置付けるのは米国への批判になりかねない。歴代首相は慎んできた発言だ。また、太平洋戦争を「侵略」と断言することには否定的だ。定義が確定されていないと言い続けている。こういう歴史認識が靖国神社参拝の背景にある。
靖国神社を参拝する理由を「国のために戦い、尊い命を犠牲にされた御英霊に対して、哀悼の意を捧げるとともに、尊崇の念を表す」と言うが、首をかしげたくなるところがある。まだ113万ものご遺骨が70年も海外に眠ったままだ。政府は遺骨収集に積極的ではなかった。それを放置したまま参拝して本当の「哀悼」になるのか。
また、一橋大学の藤原彰名誉教授の著書によると、戦死者の6割は餓死か栄養や医薬品不足による病死だ。戦いの相手は米軍ではなく飢えや病気だった。この責任は軍指導部にあるのではないか。その責任も問わず、飢え死にさせた人間と飢え死にした人間を一緒に祭ることが果たして「尊崇」になるのだろうか。
▽注目される内閣改造
国家社会主義的なのは経済政策と社会政策だ。まず、アベノミクス「3本の矢」の1本目である大胆な金融緩和。政治の指示で実施させた。次に賃金アップを経済界に直接要請して、そのための「所得拡大促進税制」を行ったこと。財務省によると、給料の一部を国が出しているようなもので、OBからは何やってるんだと怒られたという課長もいた。
また、「社会のあらゆる分野で、2020年までに指導的地位に占める女性の割合を30%以上に」という「20/30(にいまるさんまる)」政策の一環として、経団連に対し、全ての上場企業が取締役のうち1人を女性にするよう要請した。
さらに今、官邸の「少子化危機突破タスクフォース」で、合計特殊出生率の数値目標を打ち出すかどうか議論している。
通貨、民間企業の賃金、人事、子どもの数まで国が手を出すという状況にある。かつての自民党政権とは趣がずいぶん違う。少子高齢化、人口減少、成長率の鈍化という危機的状況が背景にあるが、国力を増すために国がいろいろなことに関わっていくべきだという意識が非常に強い。私が彼を「国家社会主義者」と考えるゆえんだ。
安倍内閣は三つのグループから成る。一つは実務系。菅義偉官房長官や加藤勝信、世耕弘成両副長官ら実務に長けたグループ。二つ目は経済政策や社会福祉に強い甘利明・内閣府特命担当相、茂木敏充・経産相、林芳正・農水相ら。三つ目は思想・イデオロギー系で、衛藤晟一・総理補佐官、下村博文・文科相ら。夏には内閣改造があるが、現在2人しかいない女性閣僚が、どうなるかなども含め、今後の動向が注目される。
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