『京都新聞』凡後
一度は疑う
雨の季節を迎え、紫陽花(アジサイ)の色が濃くなってきた。別名「七変化」。土壌の性質によって、その色がさまざまに変わることに由来する
▼「お西さん」として親しまれる西本願寺の新しいトップ大谷光淳(こうじゅん)氏(36)の法衣も色が変わった。これまでの「朱」から「紫」に。紫は高貴な色で、国内最大規模の仏教教団「浄土真宗本願寺派」の門主を象徴する
▼さっそく、その発言が注目を集めている。就任の記者会見で憲法の解釈変更による集団的自衛権行使容認や次世代に負担を残す原子力発電所に対して、疑問を投げかけたのだ
▼その考え方の根底には一つの物差しがある。「時代の常識を無批判に受け入れることがないよう注意深く見極めていく必要がある」。戦争に加担した宗門の過去に対する反省に基づく。満堂の法統継承式で門信徒に語った
▼論語に「紫の朱を奪うを悪(にく)む」とある。孔子の時代は「朱」が正しい色で、「紫」がまがい物とされた。人々が無意識のうちに悪い方向に染まることを非難した、と解釈できる
▼時代は変わり、色彩の意味も異なるけれど、新しい門主のメッセージと通底する。世論が極端な一方向に振れるきらいがある現代社会。みんなが正しいということを一度は疑ってみる。そんな考え方が、これまで以上に大切になってくる。
[京都新聞 2014年06月10日掲載]
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