京都新聞 社説
密室の与党協議 国民不在の乱暴な議論
集団的自衛権の行使容認をめぐる与党協議で、政府・自民党は国連の集団安全保障についても、海外での武力行使を認める案を示した。「限定的」と強調するが、自衛隊の活動範囲を際限なく拡大しかねない。憲法9条をないがしろにする、あまりにも乱暴な議論だ。
集団的自衛権と集団安全保障。似た言葉だが性格は異なる。前者は米国など密接な関係にある他国が攻撃された場合に「反撃」する権利。後者は、武力攻撃した国に対して国連軍や多国籍軍が「制裁」を加えること。いずれも憲法9条のもとで国是としてきた「専守防衛」から逸脱する。
先月の記者会見で安倍晋三首相は、集団安全保障への自衛隊参加は「違憲」と明言した。これは国民との約束だ。ところが今月、戦闘行為はだめだが、受動的で限定的な行為は認める、と修正した。
「限定行為」として想定するのは、戦闘下でのシーレーン(海上交通路)の機雷掃海だ。自民はホルムズ海峡封鎖で石油の輸入を断たれれば、「国にとって死活的」として集団的自衛権発動の要件に入れる狙いだ。集団安保も同じ理屈で認められるという認識だ。
しかし、機雷の爆破処理も敵軍から見れば攻撃を妨げる武力行使だ。戦闘に巻き込まれる確率はさらに高まる。そもそも、遠く離れた中東での活動を自衛権発動の対象とすること自体に無理がある。
公明党は反発している、と伝わる。だが、唐突にみえる自民の提案も、公明の不快感も、実は集団的自衛権の限定容認合意に向けた「当て馬」との指摘がある。妥協を演出し、最終的にはもくろみ通りの落としどころに導く。そうだとしたら、国民軽視も甚だしい。
共同通信の世論調査では、集団的自衛権の行使容認反対が55・4%と、賛成を20ポイント以上上回った。一方、与党協議は、自衛権発動の新3要件の「国民の権利が根底から覆される恐れがある場合」の「恐れ」という文言で攻防しているという。国民の反対が強いのに国会でのまともな議論もなく、密室の議論が煮詰まりつつある。
集団的自衛権の行使容認も集団安全保障も、字句の修正などに議論を矮小(わいしょう)化することは許されない。憲法解釈の変更は、9条が守ってきた平和国家の規範を失い、敵を殺し、殺される国への道を開くことだ。政府は首相の外交日程をちらつかせ、7月早々の閣議決定を狙うようだがとんでもない。あらためて議論を国会に戻し、開かれた場で国民に問うのが筋だ。
[京都新聞 2014年06月23日掲載]
0 件のコメント:
コメントを投稿