毎日新聞
特集ワイド:続報真相 第2次安倍改造内閣への欧米の冷ややか視線
毎日新聞 2014年10月10日 東京夕刊
第2次安倍改造内閣に向けられる欧米諸国の視線が冷ややかになってきた。ナチスの思想に同調しているかのような極右団体やヘイトスピーチ(憎悪表現)を繰り返す団体と閣僚らの関係が疑われているのだ。このままでは「極右と一線を引けない政権」とのイメージが定着しかねない。
◇極右、在特会と写真撮影の女性閣僚
「海外が注目し、日本の評価に関わる在特会、ヘイトスピーチに関して、あいまいな答弁しかできない。その方が在特会、ヘイトスピーチを取り締まる国家公安委員長というのはあまりにふさわしくないのではないか」
7日の参院予算委員会で小川敏夫参院議員(民主党)が追及した。「その方」とは、組閣の目玉として注目された女性閣僚5人のうちの1人、警察を監督する立場の山谷えり子国家公安委員長(拉致問題担当相)だ。在日韓国・朝鮮人の排斥を訴える「在日特権を許さない市民の会」(在特会)の関係者と2009年に一緒に写真に納まっていたことが先月発覚した。
在特会は「朝鮮人を殺せ」などと街頭でヘイトスピーチを繰り返す団体として知られる。警察庁が09年に報告書でヘイトスピーチを初めて取り上げたほか、国連人種差別撤廃委員会も今年8月に日本政府に法規制などで毅然(きぜん)と対処するよう勧告していた。
海外メディアは敏感に反応した。先月25日に外国特派員協会で開かれた山谷氏の記者会見。北朝鮮による拉致問題の早期解決を内外に訴える趣旨だったのに、質問12問のうち9問が在特会関係者と山谷氏の関係に集中した。
英タイムズ紙記者 何年前から(在特会関係者を)知っていますか。何回くらい会いましたか。在特会についての気持ちをはっきり言ってもらえますか。
山谷氏 私は選挙区が全国でありまして、たくさんの人々とお会いいたします。その方が在特会の関係者ということは存じ上げておりません。(在特会の主張について)一般論として、いろいろな組織についてコメントすることは適切ではないと考えております。
その後もヘイトスピーチについて一般論として「誠によくない。憂慮に堪えない」と懸念を示したが、「在特会」への批判は口にしなかった。
会見でヘイトスピーチへの警察の対応をただしたジャーナリストの江川紹子さんは「外国メディアの記者たちも私も、山谷さんと在特会の間に不適切な関係があるのではないか、と糾弾したわけではないんです。国家公安委員長の山谷さんから『在特会のヘイトスピーチに毅然と対処していく』との明言を得て、確認したかっただけ」とその場の雰囲気をふり返る。
「なのに」と江川さん。「山谷さんは結局、ヘイトスピーチをしている団体と対立グループの衝突を取り締まりたいと言っただけで、人種差別には法律の範囲内で毅然と対応していく姿勢を示さなかった。せっかく差別は許さないという日本政府の立場を発信し、誤解を解くチャンスだったのに、それをしなかった。これでは差別を容認している国だと世界に発信した、と受け取られても仕方がない」
疑惑は在特会と山谷氏の関係だけではない。高市早苗総務相と自民党の稲田朋美政調会長らが、ナチスの思想に同調しているかのような極右団体代表の男性と個別に記念撮影をしていたことも先月発覚していた。
この団体はホームページで「国家社会主義日本労働者党」を名乗り、ナチス・ドイツの「かぎ十字」を多数掲載、海外のネオナチ団体との交流を紹介している。また「我が人種の優秀性」「民族浄化を推進しなければならない」などと訴えてもいる。
高市氏の事務所によると、写真を撮影したのは3年以上前。雑誌の取材に同席した男性から「一緒に写真を撮りたい」と頼まれて応じた。極右団体の代表とは知らなかったとしている。また、稲田氏の事務所は先月上旬の毎日新聞の取材に対し、男性とは雑誌取材の記者同行者として一度だけ会い、その際、写真撮影の求めに応じたという。思想や素性、名前は知らず、それ以降は何の関係もないとしている。
この雑誌について、高市氏は「稲田氏らと同じ月に取材を受けた」として、今夏廃刊した月刊誌を挙げた。同誌は創刊号に在特会副会長(当時)の対談を掲載したほか、系列誌に在特会会長をたびたび登場させていた。
域内でネオナチ台頭を抱える欧州メディアの筆致は厳しい。英インディペンデント紙は先月27日の記事で「安倍晋三政権は極右の横顔を見せて人々を驚かせた」と伝え、安倍首相が戦犯として処刑された旧日本軍人の追悼法要に自民党総裁名で哀悼メッセージを送ったことも紹介した。英紙タイムズ、ガーディアンも同じように批判的に報じている。
インディペンデント紙に記事を書いたデービッド・マックニール記者は「外国人記者は戦時中の日本の歴史を蒸し返してばかりいると批判されるが、私を含めて大半の特派員はこの種の取材よりも他の取材をしたい。日本の政治家が歴史的事実をひっくり返そうとするから、この問題を取材しなければならなくなってしまう」(英字紙・毎日ウィークリー)と指摘する。
主要海外メディアとしては早期の10年8月に在特会の実態を記事にした米ニューヨーク・タイムズ紙東京支局長のマーティン・ファクラーさんは「今の米国でネオナチやKKK(白人至上主義組織)の関係者と閣僚が一緒に写真に納まることは考えられない。発覚したら即辞任。マイノリティーを攻撃するような団体と一線を引けない人は民主主義の根本原則に反しているとみられる」と説明する。
一線を引けない閣僚のいる安倍政権を米政府はどうみているのか。米政府は昨年12月の安倍首相の靖国参拝には「失望」を表明したが、今回の写真問題には公式のコメントを出していない。
ファクラーさんが解説する。「基本的には日本の内政問題と考えているのだろう。ただ、米政府は安倍政権には二つの顔があるとみている。日米同盟強化、集団的自衛権行使の容認、普天間移設などオバマ政権が求める政策を実行する現実的な顔は高く評価している。一方、靖国参拝や慰安婦問題などで感情的になった顔を警戒している。同盟国・日本がアジアで孤立することは、アジア太平洋地域のリバランス(再均衡)政策を進める米国の国益にならないと判断するからです」
◇国連外交や経済にも影響?
「志をともにする国々の力をあわせてついに積年の課題を解き、21世紀の現実に合った姿に国連を改革して、その中で日本は常任理事国となり、ふさわしい役割を担っていきたいと考える」
安倍首相は先月25日(日本時間26日未明)、国連総会の一般討論演説で「女性が輝く社会」に向けて日本が努力していると強調し、安全保障理事会常任理事国入りに強い意欲を示した。しかし、ヘイトスピーチを繰り返す団体と閣僚らの関係は国家の信頼を揺るがしかねない問題だろう。
「間接的な影響は『日本売り』にまで及ぶ」と警告する声まである。米在住の作家、冷泉彰彦さんだ。
「アベノミクスの行方に関心を持つ人々は多い。だが在特会や極右団体と閣僚らの写真の問題は『安倍改造内閣は、考え方の非常に古い支持層から送り込まれた議員で構成されている』というメッセージと受け止められた。古い支持層の反発を招く、構造改革に匹敵するような第三の矢(成長戦略)は実行できないだろうとの失望が広がった」
そこに、4〜6月期の日本の国内総生産(GDP)の実質成長率がマイナス7・1%(年率換算)と落ち込んだ。折しも、米シティバンク銀行の個人向け業務や、英ヴァージンアトランティック航空の「日本撤退」が話題に。「日本は市場として魅力がないうえ、改革も実現しそうにない。ならば……となる」と解説する。
「非常に残念なのは、女性閣僚5人と稲田政調会長について、女性登用ではなく、改革できない自民党のシンボルではないかとの認識が広がっていることです。女性管理職登用の数値目標は、年功序列から能力主義に雇用体系を変えて、成長戦略の第三の矢として機能すると期待された。しかし、女性閣僚が古い体質のシンボルでは改革は難しいだろう」と懸念する。
「女性が輝く」を訴えれば訴えるほど、女性閣僚は注目され、過去も含めた言動がチェックされる。安倍首相の口から「世界が納得する」説明を聞きたい。【浦松丈二】
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