2015年2月9日月曜日

ISILによる日本人人質拘束殺害事件で、政府が無視したIS交渉チャンネル・中田教授と日本政府の動きについてロイターが詳報。日本政府が対応について外注した危機管理企業CTSS Japan社長は民間交渉チャンネルを無視した日本政府の対応を「間違っていたかもしれない」と吐露。 — deepthroat / 有難い。内田樹さんのローター翻訳 (内田樹の研究室) / 安倍政権にまた人質見殺しの新事実が…相次ぐ失態暴露に公安が口封じ逮捕の動き? (田部祥太 LITERA)




日経BP
「私は、従業員の命を軽視する日本企業で働きたいとは思わない」
スウェーデン元海軍将校に聞いた「テロ・リスク対策」
瀬川 明秀 2014年2月25日(火)



内田樹の研究室
2015.02.09 ロイターの記事

2月8日にロイターの記事で人質問題での中田考先生の関与について報じられた。
「報道特集」で語った内容とだいたい同じ話だけれど、CTSS Japan というセキュリティ・コンサルタント会社名が出て来たのは、はじめてではないかと思う。
政府は自分たちが一体何をしたのか、何をしなかったのかについて「コメントしない」としているが、それでは彼らがの対応の適否についての判定は下せない。
政策の適否について国民が判断できる情報をいっさい提供しないというのは、それ自体が「口に出せないような致命的失策を繰り返し犯していたこと」ことの証拠である。常識はそう解釈する。
それにしても、日本国内で何が起きているのかを外国のメディアを経由して知らなければならないというのは、ほんとうに悲しいことである。

「過激な学者、人質事件でISとの交渉チャンネルを提供」

日本政府は人質危機の決定的局面においてISとのコミュニケーションチャンネルを開いたが、それを用いて交渉に入ることを望まなかった、と一時的に交渉の間に入った東京在住のイスラム法学者は語った。

ハサン中田考(54歳)は警察からはISのリクルーター容疑をかけられているが、先月の人質事件の決定的局面で外務省から集団あてにメッセージを手渡すように依頼された。

これまで明らかにされてこなかったが、この要請はシリアで身代金のために拘留されていた二人の日本人を解放するために日本政府が、テロリズムには屈しないと公的には表明しながら、ある時点までISと話し合いをする準備をしていたことを示している。

ISが二人の人質(一人は自称セキュリティ・コンサルタント、一人はベテランの戦場レポーター)を斬首したのは日本政府が人質問題に対処するためにヨルダン政府と連携することを決定した後のことである。この対応の適否については今日本国内では吟味がなされている。

ISからのヨルダン市民の解放の手立てを求めていたヨルダン政府とのみ排他的に連携するというこの決定は、中田経由のコミュニケーション回路を閉ざしただけでなく、後藤健二(47歳)の妻とISの間で開かれていた別のコンタクトも事実上終結させることになった。

「政府は使えたはずの私的なコミュニケーション・チャンネルを制約したが、過激派との直接交渉の回路は最終局面までついに持つことができなかった。これは失敗だった」と日本政府のために動いていたセキュリティ・コンサルタント会社CTSS JapanのNils Bildt社長は語っている。

外務省のテロ対策タスクフォースは中田の主張についてのコメントを拒否している。

「日本政府は人質問題についてできる限りの手立てを尽くし、すべてのオプションを検討した。しかし、政府が何をしたのかについての個別的はコメントを控えたい」とタスクフォースのハヤシタカノリは回答している。

中田は現在ではISを支持する立場にはないが、昨年9月に自発的にシリアに渡航し、最初の人質、湯川遙菜の解放を試み、そのときに人質事件にかかわることになった。

後藤も同様のミッションを果すべく去年10月湯川の解放に向かったが、彼自身が拘留されることになった。

その直後、後藤の妻はIS代表部からメールを受け取り、イギリスのセキュリティ・コンサルタントと中東での後藤の仕事仲間たちからの支援を受けて、ISとの話し合いに入ろうとしていた。

日本の当局は湯川と後藤の家族にはたとえ請求があっても身代金を払うことはないと私的には伝えていた。

その後、シリアから日本に戻ってきた中田はISと行動を共にしてシリア北部にいるチェチェンの活動家Umar Ghuraba と外務省の間の橋渡し役をすることになった。

「この事件を解決する一助として、私のISとの個人的なコネクションを使いたいと思った」と中田は語っている。

中田は1970年にイスラムに改宗した。彼はかつてはISへの支持を表明し、IS国旗の前で銃を擬している写真をTwitterで公開してもいるが、現在ではもうISを支援していない。それでも活動家たちとの友情は継続している。

1月21日、ISが後藤と湯川のために2億ドルの身代金支払いまで72時間の期限を宣告した一日後、日本政府のテロ対策タスクフォースは中田の友人Shiko Ogata(31歳)宛てにメールを送った。
メールにはIS宛てのメッセージが含まれており、それを先方に手渡すように要請された。Ogataは中田にメールを転送した。

メッセージは英語とアラビア語で書かれており「われわれは集団が二人の日本国民に危害を加えることなく、ただちに解放することを強く要求する」とあった。身代金についての言及はなかった。
中田はこのメッセージを転送しなかった。このメールは日本政府が対話を拒んでいるという印象を抱かせるものだったからだ。「もしこれを先方に送ったら、それは人質を殺せというメッセージを送ることになる」と中田は言う。

外務省からはメッセージについてもISからの返信についてもその後問い合わせはなかった。

しかし、1月23日、身代金の支払い期限が近づくと、中田はWhatsapp(スマートフォンアプリ)経由でUmarからのメッセージを受信した。日本時間の午前4:30,シリアでは夜9:30のことである。

「もうあまり時間が残されていない。ISは約束を実行するだろう」とUmarからのアラビア語メッセージは告げた。Umar の身元と、彼と人質捕獲者たちとの関係は確認されていない。

Umarは中田に対して「交渉のチャンネル」経由で得られた音声メッセージについて、それが信頼できるものであるかどうか訊ねてきた。

その音声メッセージの中では、一人の男が自分はヨルダンの日本大使館の外交官Masayuki Magoshiであると名乗っていた。日本語で語られたこのメッセージで、彼は日本政府は人質の安全に「真剣」であると語り、人質たちの氏名と生年月日を告げた。

ロイターはこの音声録音の真正性については確認がとれなかった。

「これはたぶん本物だろう」と中田は深夜外務省テロ対策タスクフォースのトップに電話を入れてステートメントの確認を求めた後にそう返信した。

「ISの条件が満たされることが重要だ」とUmarは返信してきた。

翌日、湯川の斬首とされるビデオがネット上に配信された。後藤はその一週間後に殺された。

中田はその後テロ対策タスクフォースからは音信がないと語っている。Umarとの連絡も途絶えたままだ。

(おわり)


LITERA
安倍政権にまた人質見殺しの新事実が…相次ぐ失態暴露に公安が口封じ逮捕の動き?
田部祥太 2015.02.08

「イスラム国」人質殺害事件での日本の対応について、国会では連日、野党から追及が行われている。しかし、安倍晋三首相は問題となっている中東訪問時のスピーチに関しても「言葉が不適切だったとは考えていない」などと正当性を主張するばかり。肝心の交渉については、「(政府は)もっとも効果的な方法を考えた」(菅義偉官房長官)と言い張るが、その詳細は「具体的な内容は避けたい」(岸田文雄外相)の一点張り。

 それも当然だろう。官邸は湯川遥菜さんと後藤健二さんを救うための方策など何も講じていなかったのだから、具体的内容などいえるわけがない。

 実際、昨日2月7日放送の『報道特集』(TBS系)でも唖然とさせられるような新事実があきらかになった。それは、湯川さんと後藤さんの殺害予告動画が公開された1月20日以降、日本政府がイスラム国へ送った日本語の「音声メッセージ」の存在だ。

 音声メッセージの送り主は、「実在するシリア臨時代理大使」。音声の長さは25秒。その内容は、以下の通りだ。

「私、○○○(番組では○の部分は音声を伏せている)は日本政府の代表である。日本政府は日本人2名の無事な生還について真剣である。当該2名のフルネームと生年月日はそれぞれ、湯川遥菜1972年○○○○、後藤健二1967年○○○○である」

 2人の映像がアップされた後に政府がこんな初歩的なメッセージを、しかも日本語で送るなんてことがありうるのかと思うのだが、この音声メッセージはどうも本物らしい。

 今回、音声メッセージを公開したのは、イスラム国とパイプをもつイスラム法学者の中田考氏。中田氏に音声メッセージを送ってきた人物は、イスラム国の司令官であるウマル・グラバー氏だ。ウマル氏は上級幹部と話ができ、バグダディ容疑者とも何度か会っているという重要人物。昨年9月、中田氏はウマル氏から拘束されていた湯川さんに対するイスラム国の裁判で通訳を依頼され、ジャーナリストの常岡浩介氏とともにイスラム国の支配地域に赴いたが、空爆の開始により湯川さんとは対面できずに帰国。10月にはイスラム国の関係先として公安から家宅捜査を受けたことで、湯川さん解放のために再びシリアへ渡航することもできなくなった。そしてウマル氏との接触をおさえざるを得なかった。しかし、1月20日の殺害予告動画公開を受け、中田氏は再びウマル氏と連絡するようになったという。

 ウマル氏が中田氏に繰り返し伝えていたのは、「とにかく時間がない」ということだった。要求に対して日本政府が答えていない──そのことに苛立っている印象を受けたと中田氏は言う。そんななか、中田氏はウマル氏から「翻訳をしてくれ」という依頼が入る。それが、前述した日本語の音声メッセージだ。

 ウマル氏は「(この音声メッセージが)ほんとうに日本政府のものか確認したい」といい、そして「これが正しいものか」と中田氏に質問した。この状況では中田氏も「私にもわかりません」と答えるしかなかったのだが、ウマル氏は音声メッセージの信憑性について「決して信用していない」と中田氏に伝えた。

 緊急性を感じた中田氏は、深夜4時という時刻だったがすぐさま外務省の邦人テロ対策室に連絡。音声メッセージが本物かどうかを問い合わせたが、外務省の返答は「本物だと思ってもらっていい」という回りくどい表現のもの。ちなみに『報道特集』の取材に外務省は「具体的な交渉の内容は明らかにできない」としつつも、今回の事件の交渉内容を知る外務省幹部が日本語の音声メッセージをイスラム国側に送ったことを認めたという。

 つまり、音声メッセージは本物であり、政府の対応は2人の動画がアップされて数日たった段階でまだこんな程度のレベルだったのである。ウマル氏に信憑性を疑われるのも当然で、中田氏は番組内でこのように解説している。

「真剣だと言ってもですね、日本政府の代表といわれる人間がそのレベル(シリア臨時代理大使、ヨルダンの日本大使館参事官の兼務)の人間であるというのは、やはり……。もちろん首相ではなくともですね、少なくとも外務大臣や副大臣、名前の確認できる人でなければですね、真剣だと言っても先方には伝わらないように思います」

 しかも、ウマル氏が伝えてきたイスラム国側の要求内容を中田氏はすべて外務省に報告したが、外務省から中田氏への連絡は一度もなかった。

 湯川さんが殺害された後、ウマル氏は中田氏にこう伝えてきたという。
「先生、事態を理解してください。我々としてはできる限りのことをやったんだけれども、上の命令なので私にはこれ以上のことができなかった。非常に残念である」

 それ以降、ウマル氏からの連絡は途絶え、トークアプリのアカウントも消えている。

 ようするに、日本政府は中田氏というイスラム国側と交渉するたしかなパイプがあったにもかかわらず、しかも中田氏は自ら外務省にすべてをつぶさに報告していたのに、それを完全無視したのだ。

 安倍首相は今月2月5日の参議院予算委員会で、「こういう出来事が起こりますとですね、中田さんだけではなくて、自分はこういう(交渉)ルートがあるから協力したいという人は結構出てくるんですよ」「やたらめったらに『お願いします』とすれば、(交渉が)うまくいかないのは常識」「このような申し出に簡単に乗るわけにはいかない」と話したが、なんの説得力もない。

中田氏のことを信用できないというのはわかるが、政府はこの段階で小学生のようなメッセージを日本語で送るくらいしかできていなかった。交渉を中田氏に任すということはしなくても、もう少し踏み込んだメッセージを中田氏経由で届けてもらうとか、具体的な交渉に入るための段取りをイスラム国側にヒアリングしてもらうくらいのことはできたはずだ。

 しかし、政府はそれすらもやらなかった。それは怠慢というより、そもそも安倍首相と官邸には救出のための具体的対策を講じる気など最初から一切なかったということだろう。

 それだけでも十分唖然とさせられるが、じつはもっと呆れかえる話がある。なんと、この中田氏を現在、公安がマークし、身辺調査を行うべく動き回っているというのだ。

「公安が目を付けているのは中田さんだけではなく、常岡浩介さんも同様にターゲットとなっている。公安が嗅ぎまわっているのは、ふたりを逮捕できる材料。何かしら理由をつけて逮捕することで、ふたりを黙らせるのが公安の狙いです」(公安担当記者)

 先にもふれたように、湯川さん拘束の後、中田氏と常岡氏が公安の妨害を受けていなければ、湯川さんは助かっていた可能性がある。そして後藤さん拘束と2人の殺害が予告された後には、「(人質解放の)交渉ができるのなら、イスラム国に行く用意がある」とさえ申し出ていた。それを無視しただけなく、いまもなお、中田氏と常岡氏を逮捕しようとしている。今回の『報道特集』で中田氏は政府の失態をあきらかにしたわけだが、こうした告発を力で押さえ込もうとしているのだ。

 事実、2月4日の衆議院予算委員会で山谷えり子国家公安委員長は、「イスラム国関係者と連絡を取っていると称する者や、ネットでイスラム国支持を表明する者が国内で所在することも承知している」と答弁。そうした人物への警戒を徹底的に強化する方針を公表したが、“テロ対策”を謳って、交渉の詳細を知る人物の口封じをする意図が透けて見えるかのようだ。

「山谷氏が委員長になってからというもの、公安はやり口が露骨になってますからね。何をやるかわからない。新左翼過激派にやっているような、ホテルを偽名で泊まった、免許証の住所変更をしなかった、などの微罪逮捕もありうるし、中田さんや常岡さんなど、イスラム国とパイプがある人物だけでなく、この問題で政府に批判的な専門家を片っ端から洗っているという話もあります」(前出・公安担当記者)

 だが、こうした政府の人質見殺し、そして卑劣な批判封じを追及する動きはまったくない。ほとんどの大手メディアが政府に睨まれるのを恐れ、人質事件における政府の対応についての検証を放棄。そして、『報道ステーション』(テレビ朝日系)や今回の『報道特集』など、真っ当に安倍政権の対応を検証しようとした番組に対しては、政府と連動するようにネットからヒステリックな批判の声があがっている。

 たとえば、『報道特集』はこの中田氏の証言にかぎらず、1月28日にアメリカからヨルダン政府に圧力が加わり後藤さんの解放を阻んでしまったことや、かつてイスラム国に拘束されたスペイン人の人質解放に成功したヨルダン人弁護士が協力を申し出たものの、日本政府からはなしのつぶてだったことなど、かなり踏み込んだ検証を行った。

 が、ネットの反応は逆。同番組への「偏向報道」の大合唱が起き、こんな書き込みであふれている。

「反日TBSの報道特集が報ステ超えしたぞ!」「なんだ?この放送局は?ISの犬畜生じゃないの」「テロリスト批判は無く、“日本の過ち”と日本が諸悪の根源の様な口振りの報道特集」
 
 このままヒステリーが広がっていけば、公安による不当な逮捕劇が行われても、それに対する批判は「イスラム国のスパイを許すな!」という大合唱にかき消されてしまうだろう。そして、「テロとの闘い」を名目に安倍政権の言論取り締まりはどんどん強化されていく。オーバーではなく、言論統制国家はすぐその先にあるといっていい。

(田部祥太)


報道特集 中田考氏 『 人質事件3つの過ち 』 2015年2月7日









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