「墨汁一滴」と題して、自筆で短文の「日記」を毎日書くことにした。
2日目の1月14日には、1月7日に子規庵で催された短歌門人の新年会に岡麓が持参した春の七草の竹かごをめでた390字ほどの稿を書いた。
ただ、編集部に何の連絡も根回しもなく原稿を送ったため、手違いが生じ、新聞『日本』への掲載はやや遅れて始まった。14日の原稿は17日の掲載となった。
以下、「青空文庫」からの引用(但し、読み易さのために改行を施した)
一月七日の会に麓(ふもと)のもて来(こ)しつとこそいとやさしく興あるものなれ。
長き手つけたる竹の籠(かご)の小く浅きに木の葉にやあらん敷きなして土を盛り七草をいささかばかりづつぞ植ゑたる。
一草ごとに三、四寸ばかりの札を立て添へたり。
正面に亀野座(かめのざ)といふ札あるは菫(すみれ)の如(ごと)き草なり。こは仏(ほとけ)の座(ざ)とあるべきを縁喜物(えんぎもの)なれば仏の字を忌みたる植木師のわざなるべし。
その左に五行(ごぎょう)とあるは厚き細長き葉のやや白みを帯びたる、こは春になれば黄なる花の咲く草なり、これら皆寸にも足らず。
その後に植ゑたるには田平子(たびらこ)の札あり。はこべらの事か。
真後(まうしろ)に芹(せり)と薺(なずな)とあり。薺は二寸ばかりも伸びてはや蕾(つぼみ)のふふみたるもゆかし。
右側に植ゑて鈴菜(すずな)とあるは丈たけ三寸ばかり小松菜のたぐひならん。
真中に鈴白(すずしろ)の札立てたるは葉五、六寸ばかりの赤蕪(あかかぶら)にて紅(くれない)の根を半ば土の上にあらはしたるさま殊(こと)にきはだちて目もさめなん心地する。
『源語(げんご)』『枕草子(まくらのそうし)』などにもあるべき趣(おもむ)きなりかし。
あら玉の年のはじめの七くさを籠に植ゑて来(こ)し病めるわがため
正岡子規『墨汁一滴』(一月十七日)
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