東洋経済オンライン
日本のポエム化は中田英寿から始まった!
ポエム化を助長するのは安倍さんとEXILE
上田 真緒 :東洋経済オンライン編集部
2014年06月03日
日本中がポエムであふれている。
「夢」「勇気」「仲間」「絆」「寄り添う」「イノベーション」──。
何かを語っているようで何も語っていない抽象的な言葉が、政治やビジネス、ネット、J-POP界隈に蔓延している。
世の中はいつからポエム化し、人々はポエムに何を求めているのか?
ポエム化現象のナゾを5日連続で解明していく。
1日目は、コラムニストの小田嶋隆さんに、ポエム化の起源と問題点を伺う。
(略)
客観性を装いながら叙情的な天声人語
──天声人語もポエム化していますか。
「『ウクライナ』という柔らかい響きからは、かすかな麦笛を聞く心地がする」(2014年5月28日付)とかね。
(略)
ただ、J-POPやグラビアの言葉があいまいだったり、焦点を結ばなかったりしても、別に問題はない。私が問題視しているのは、政治家や役人の言葉、官公庁のプレスリリースなど、説明すべき責任のある文章がポエム化していることなのです。本来、情報を運ばなければいけないのに、気分を運んでいる。つまりポエムですよ。
──意図的に何かをごまかしている?
典型的な例は、オリンピックの招致委員会のキャッチフレーズです。「今、ニッポンにはこの夢の力が必要だ。」というあれ。招致委員会が国民に向けて説明するのだったら、日本の消費がこれだけ冷えて込んでいて、オリンピックを東京に招致することによって、こういう効果が期待できるという情報を伝えなければいけないのに、「夢の力」という、実にあいまいもことした言い方をして、ボディコピー(キャッチコピーに続く長めの文章)も全面ポエムでした。
※以下に引用
今、ニッポンにはこの夢の力が必要だ。
オリンピック・パラリンピックは夢をくれる。
夢は力をくれる。
力は未来をつくる。
私たちには今、この力が必要だ。
ひとつになるために。
強くなるために。
ニッポンの強さを世界に伝えよう。
それが世界の勇気になるはずだから。
さあ、2020年オリンピック・パラリンピックをニッポンで!
招致ポスターの中でいきなり円グラフを出せ、というわけではないですよ。キャッチフレーズや広告コピーというのは、だいたいポエムの世界です。本当はプレスリリースの中で説明しないといけないのに、説明がほとんどない。
(略)
安倍さんが持ち出す言葉はカタカナが多い
(略)
カタカナや英語も昔から使われている言葉はまだいいのです。何これ?っていうのがあるでしょう。「ホワイトカラーエグゼンプション」とか。これは要するに、管理職の残業代を払わないということ。「管理職残業代削減」法案とか言えば、とんでもない法案だって話になりますけど、わざと難しいカタカナにして、わかりにくくしている。漢語で言うと、物事は理解しやすくなるのです。あまり理解してほしくないときに、カタカナにするのです。
──経済産業省が「スマートワーク」構想を打ち出していますが。
管理職だけなく、平社員も残業代をなしにするという。何がスマートなのか。「平社員残業代削減」構想と言うべきでしょう。
安倍(晋三)さんが言っている「教育バウチャー制度」も何だかよくわからない。安倍さんが持ち出してくる言葉にはカタカナが多いです。
──やまと言葉はどういうものが危険なのですか。
「寄り添う」「触れ合う」「想い」とか。お役所的な言葉では「交流」「支援」「計画」というように、必ず漢語になるはずなのです。漢語になっていれば、誰に責任があるのかが明確ですが、「寄り添う」と言った瞬間に、ぼやっとしてしまう。いくら予算がつぎ込まれて、いつまでに何をどうするのかという責任論から離れてしまう。「被災者に寄り添う」って、具体的には何もしないけど応援しています、みたいな気分だけでもいいわけですからね。
聞く側も、官僚的な硬い言葉を並べられるより、やわらかいやまと言葉のほうが、心がこもっているような錯覚を起こす。だから、政治家や役人がカタカナ、英語、やまと言葉を使ったら注意しなければならない。
──漢語でも、ベタな言葉を企業や若者が使い、「ポエム化」しているようです。NHK「クローズアップ現代」で今年1月、「居酒屋甲子園」というイベントが紹介されて話題になりました。居酒屋で働く若者たちが、「夢」「仲間」「絆」といった言葉を連呼して熱い思いを絶叫しています。
※例
夢はひとりで見るもんなんかじゃなくて、みんなで見るもんなんだ!
人は夢を持つから、熱く、熱く、生きられるんだ!
(略)
企業は「うちの会社のために命を懸けろ」とはなかなか教育できないし、何の説得力もないから、仲間と助け合うことを教育しているのでしょう。彼らも「自分の勤めている居酒屋のために命を張るぜ」とは言っていない。仲間のために頑張っているのです。
──その純粋さを企業は利用している。
マッチョ道徳」を警戒
「絆」周辺はものすごく警戒してかからないといけない。震災のときも盛んに言われたでしょう。「絆」「絆」ということで、復興特別税もほとんど議論なしにありになった。もちろん、それはいいことですよ。でも、「絆」というのは道徳律ですから、逆らうことができない。まったく反論できない空気になることが恐ろしいわけです。反論しようものなら、「お前、仲間を見捨てるのか」となりますから。
「仲間との絆」が何より大事な任侠の世界では、仲間を裏切ったやつは殺してもいいことになっている。男の世界の「マッチョ道徳」って、まるっきりポエムですよ。そういう意味で、私はEXILEを強く警戒しているんですけど。
──EXILEを警戒?(笑)
ヤンキーの王道ですよね。男、仲間、礼儀。全部、EXILEです。EXILEの持っている、ちょっとコワモテで、乱暴かもしれないけど、気のいいヤツで、礼儀正しくて、先輩を立てる。その筋の通った男らしさは、安倍首相も大好きなんです。安倍さん、何かっていうとEXILEを呼び出すでしょ。
──夕食会に呼んだり、コンサートに行ったり。
実は、戦前・戦中に日本がすごくポエム化しました。「欲しがりません、勝つまでは」とか「ぜいたくは敵だ」といった国策標語が蔓延して戦争に傾斜していった。ポエムを全員が唱和して、気分を醸成し、それこそ全新聞が同じ記事を書くようになった。
これはあの時代に限られた話だと思うかもしれませんが、何かの拍子に一気に国民世論が傾く可能性はあります。ポエムがはまって国民の気持ちが高ぶると危ないです。
(おわり)
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