2019年10月22日火曜日

金子兜太 736句に甦る全霊の「踊り」 俳人・高野ムツオ 句集「百年」に思う (朝日新聞2019-09-22)



金子兜太 736句に甦る全霊の「踊り」
(俳人・高野ムツオ 句集「百年」に思う)

(略)読中も読後も、脳裏に何度も浮かんだのは、父で医師・俳人の金子伊昔紅と兜太が秩父音頭を踊り続ける姿であった。

 これは加藤楸邨が「金子兜太といふ男」(「俳句」昭和四十三(一九六八)年十月号)で紹介している。兜太が召集を受け出征する際、楸邨の他、田川飛旅子、沢木欣一ら俳句仲間が秩父の旅館に集った。熱気渦巻く宴たけなわ、親子二人が踊り出したのである。すっかり着物を脱いで生まれたままとなり「二本の白熟した線のやうに踊りつづける」。一同しいんと見とれてしまったと楸邨は述懐している。

 この踊り自体が金子兜太の俳句であった。踊りは、七五調の歌詞と囃子を伴って同じ手ぶり身ぶりが何度も繰り返される。だが、どれ一つとっても決して同じものはない。全身全霊をかけて、時に己が肉体に死者を招き入れ、時に生者と交歓し、ありのままの生きものとして踊る。眼は土に空に注がれ、未来を見つめる。どれもが一回性の踊りなのだ。その姿が『百年』に収められた全七三六句から甦ってきた。

(略)



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