灯 茨木のり子
人の身の上に起ることは
我が身にも起りうること
よその国に吹き荒れる嵐は
この国にも吹き荒れるかもしれないもの
けれど想像力はちっぽけなので
なかなか遠くまで羽ばたいてはゆけない
みんなとは違う考えを持っている
ただそれだけのことで拘束され
誰にも知られず誰にも見えないところで
問答無用に倒されてゆくのはどんな思いだろう
もしも私が そんな目にあったとき
おそろしい暗黒と絶望のなかで
どこか遠くにかすかにまたたく灯が見えたら
それが少しづつ近づいてくるように見えたら
どんなにうれしくみつめるだろう
たとえそれが小さな小さな灯であっても
よしんば
目をつむってしまったあとであっても
(「アムネスティ人権報告」1993年12月 詩人67歳)
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