詩人茨木のり子の年譜(改訂ー2)
1928(昭3)2歳
弟英一生れる。家庭内では母がしゃべる庄内弁をたっぷり浴びて育つ。
1931(昭6)5歳
父の転勤により京都に転居。京都下総幼稚園に入園。
1932(昭7)6歳
愛知県西尾市に転居。
1933(昭8)7歳
愛知県西尾小学校入学。母の影響で宝塚に夢中となる。
茨木 ・・・子供時代には宝塚ファンで、よく見ました。亡くなった母が好きでしたから。私も夢中になって。舞台の魔力はまず宝塚から。・・・
(大岡信との対談「美しい言葉を求めて」 谷川俊太郎選『茨木のり子詩集』(岩波文庫)所収)
1937(昭12)11歳
母・勝が結核で没。のり子は小学校5年生。
「このごろは戦争戦争でいつぱいだ どこへいつても戦争だ 兵隊はどんどんゆく まつたく涙ぐましい次第である」
(昭和12年9月2日の日記) (別冊太陽)
「戦争が始ったんだって。いやだねえ。」
「ふうン、どこと?」
「支那とだが。」
校庭でドッジボールをしなから始業前のひととき三河弁でそんな会話がボールとともに飛びかっなのは、私の小学校五年生のときで、のちに日支事変と呼ばれるものだった。
子供ごころにも何やら暗雲のかげさして、いったいどうなるのだろうと不安になったのだが、それから太平洋戦争に突入して八年後には敗戦となる運命は知るよしもなかった。
(「はたちが敗戦」)
1939(昭14)13歳
愛知県立西尾女学校入学。「活字の虫」のような本好きで、夏目漱石、森鴎外、中勘助、佐藤春夫、吉川英治、林芙美子、吉屋信子、横光利一などを手当たり次第に読む。
この年、第二の母のぶ子を迎える。
1941(昭16)15歳
太平洋戦争勃発。
全国で最初に校服をモンぺに改めた学校で良妻賢母教育と軍国主義教育とを一身に浴びる。
先日、知人と話していて、私が、金素雲氏の『朝鮮民謡選』(岩波文庫)を、少女時代に愛読していたことに話が及び、
「じゃ、ずっと昔からじゃないですか」
と言われ、そう言われれば関心の芽は十五歳くらいからか・・・・・と改めて振りかえる思いだった。
麻の上衣(チョゴリ)の
中襟(なかえり)あたり
硯滴(みずさし)のよな
あの乳房、
莨種(たばこだね)ほど
ちらりと見やれ
たんと見たらば
身が持たぬ
*
なんとしましょぞ
梨むいて出せば
梨は取らいで
手をにざる
*
姑 死ぬよに
願かけしたに
里のおふくろ
死んだそな
いま読んでも、うっとりさせられるが、少女時代にもそれなりに隣国の民謡の神髄に触れ得ていたと思う。くりかえし読んだのは、言葉のわかりやすさ、素朴さ、愛情表現の機智に惹かれたのかもしれない。
一九三三(昭和八)年刊のこの本は、当時から名訳のほまれ高いものだったが、改めて読み直してみて、婦女謡 - 女たちの嫁ぐらしの辛さをうたったものに面白いものが多いのを新たに発見したし、また金素雲(キムソウン)氏の秘められた抵抗精神を受けとらざるを得なかった。
ほぼ四十年を経て、彼の蒔いた種子が、ひょっこり私の中で芽を出したと言えなくもない。・・・・・」
(『ハングルへの旅』)
のちに、金素雲の孫でシンガーソングライターの沢知恵が詩人の長編詩「りゅうりぇんれんの物語」を弾き語るというエピソードが生まれる(後述)
《参考資料》
後藤正治『清冽 詩人茨木のり子の肖像』(中央公論社)
後藤正治『評伝茨木のり子 凛としてあり続けたひと』(『別冊太陽』)
金智英『隣の国のことばですもの 茨木のり子と韓国』(筑摩書房)
成田龍一「茨木のり子 - 女性にとっての敗戦と占領」(『ひとびとの精神史第1巻 敗戦と占領 - 1940年代』)
井坂洋子『詩はあなたの隣にいる』(筑摩書房)
芳賀徹『みだれ髪の系譜』(講談社学術文庫)
中村稔『現代詩の鑑賞』(青土社)
高良留美子『女性・戦争・アジア ー 詩と会い、世界と出会う』(土曜美術社)
小池昌代「水音たかく - 解説に代えて」(谷川俊太郎編『茨木のり子詩集』所収)
蘇芳のり子『蜜柑の家の詩人 茨木のり子 - 詩と人と』(せりか書房)
『展望 現代の詩歌 詩Ⅳ』(明治書院)
『文藝別冊「茨木のり子」』所収論考
長谷川宏「茨木のり子の詩」
若松英輔「見えない足跡 - 茨木のり子の詩学」
姜信子「麦藁帽子にトマトを入れて」
河津聖恵「どこかに美しい人と人との力はないか
- 五十六年後、茨木のり子を/から考える」
野村喜和夫「茨木のり子と金子光晴」
細見和之「茨木のり子の全人性」
《茨木のり子の作品》
大岡信との対談「美しい言葉を求めて」(谷川俊太郎選『茨木のり子詩集』(岩波文庫)所収)
茨木のり子「はたちが敗戦」(『ストッキングで歩くとき』堀場清子編たいまつ新書1978年)
茨木のり子「「櫂」小史」(『現代詩文庫20茨木のり子』所収)
茨木のり子『ハングルへの旅』(朝日新聞社)
茨木のり子『わたくしたちの成就』(童話屋)
茨木のり子/長谷川宏『思索の淵にて - 詩と哲学のデュオ』(近代出版)
茨木のり子『詩のこころを読む』(岩波ジュニア新書9)
茨木のり子『個人のたたかい ー金子光晴の詩と真実ー』(童話屋)
茨木のり子『茨木のり子全詩集』(花神社)
谷川俊太郎選『茨木のり子詩集』(岩波文庫)
高橋順子選『永遠の詩② 茨木のり子』(小学館)
茨木のり子の詩と茨木のり子関連記事 (最終更新日2021-12-23)
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