2012年5月27日日曜日

ナオミ・クライン『ショック・ドクトリン』を読む(7) 「第14章 米国内版ショック療法 - バブル景気に沸くセキュリティー産業 -」(その三)

東京 北の丸公園 2012-05-25
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ナオミ・クライン『ショック・ドクトリン』を読む(7)
 「第14章 米国内版ショック療法 - バブル景気に沸くセキュリティー産業 -」(その三)

チェイニーとハリバートン
「フォード政権時代、ラムズフェルドの”子分”だったディック・チェイニーもまた、不吉な未来を想定して財を成してきた。
チェイニーが当てにしたのは病気ではなく戦争だった。
ブッシュ〈父)政権下で国防長官を務めたチェイニーは、現役部隊の規模を縮小する一方で、民間委託契約を大幅に増やした
チェイニーはヒューストンに本社を置く多国籍企業ハリバートンのエンジニアリング部門、ブラウン&ルートと契約し、民間企業に委託可能な米軍の業務を調査させた。
当然ながら多種多様な業務が委託可能だとの報告が出され、これに基づいてペンタゴンは「兵站民間補強計画(LOGCAP)」という大胆な外部委託契約プログラムを導入する。
ペンタゴンが兵器メーカーと数十億ドル規模の契約を結んでいることにはもとより悪評があったが、今回は装備の供給ではなく、軍の運営のマネジメントを民間に委託しようというのだ。」


「米軍の軍事活動に無制限の「後方支援」を提供するというこの契約の入札には、有力企業数十社が参加した。・・・
経費をペンタゴンが負担するだけでなく、利益まで保証される「原価加算(コストプラス)方式」の契約だった。
ブッシュ(父)政権の任期切れ直前の一九九二年、契約を勝ち取ったのはほかでもないハリバートンだった。『ロサンゼルス・タイムズ』紙のT・クリスチャン・ミラーが書いたように、ハリバートンが「他の三六社をしのいで五年契約を獲得したのも、この契約業務を立案した張本人であれば当然と言えよう」

軍隊のマクドナルド化
「クリントン政権に替わって三年目の一九九五年、チェイニーはハリバートンの新たなCEOに就任する。
すでに国防総省には子会社のブラウン&ルートが食い込んでいたが、ハリバートンはチェイニーの采配のもと、近代戦の様相を一変させるほどの劇的な拡大を目論んでいた。
国防長官時代のチェイニーと結んだ契約文書を巧妙にぼかしておいたおかげで、「後方支援」という言葉はいかようにも拡大解釈でき、海外の軍事行動に伴うすべてのインフラ建設をハリバートンが請け負うことも可能だった。
軍の役目は兵士と武器の確保だけでいい - 言ってみれば国防総省はコンテンツ・プロバイダーで、取り仕切るのはハリバートンというわけだった。」


「その結果がバルカン紛争のときにお目見えした「軍隊のマクドナルド化」とでも言うべきもので、米軍の海外派遣はさながら重装備された危険いっぱいのパッケージツアーといった趣を呈した。
「兵士がバルカンに到着した際にはわが社のスタッフが最初に出迎えをし、最後に見送るのもわが社のスタッフです」というハリバートンの広報担当者の説明は、軍の後方支援担当者と言うよりまるでクルーズツアーのガイドのように聞こえる
だが、それこそがハリバートンのセールスポイントだった。
戦争を収益性の高いサービス経済の一部にしてもいいではないか、にっこり笑って軍事侵略を ー というわけである。」


「一万九〇〇〇人の兵力が送り込まれたバルカン半島で、現地の米軍基地の建設と運営を一手に引き受けたハリバートンは、ゲートに囲まれた小ざれいな”ミニ・ハリバートン・シティー”を出現させた。
アメリカ国内にいるような居心地の良さを提供しようと、基地内にはファストフードの店舗からスーパーマーケット、映画館、ハイテク設備のジムまでが整備された。
・・・ハリバートンにしても、顧客を満足させることがいちばんだった。そうすればこの先の契約も保証されるし、利益はかかったコストのパーセンテージ計算なので、コストをかければかけるほど儲けが出る
イラク戦争の際に連合国暫定当局が置かれたバグダッドのグリーンゾーンでも、「大丈夫、原価加算方式だから」という言葉が盛んに飛び交ったが、こうした戦争支出のデラックス化はクリントン政権時代に始まったことだった。
チェイニーがハリバートンのCEOの座にあったわずか五年の間に、財務省から同社への支払い額は一二億ドルから二三億ドルへとほぼ倍増し、連邦政府からの融資と融資保証の合計額は一五倍に膨らんだ。
もちろん、こうした貢献に対してはたっぷり報酬が与えられた。副大統領就任前、チェイニーは「自分の純資産を一八〇〇万ドルから八一九〇万ドルの間だと算出したが、ここには六〇〇万ドルから三〇〇〇万ドルに相当するハリバートンの株が含まれており・・・」という状態にあった。」

妻のリンはロッキード社で活躍
「九〇年代後半、彼の妻リンは世界最大の軍需企業ロッキード・マーティンの役員の座にあり、・・・。
リンが役員を務めた一九九五年から二〇〇一年は、ロッキードのような軍需企業が重要な転換期を迎えた時代である。冷戦終結で国防費が減少するなか、収入のほぼすべてを国防総省への兵器納入契約に頼っていた企業は新たなビジネスモデルを必要としていた。
こうしてロッキードをはじめとする兵器メーカーは、新たな事業に積極的に乗り出す - 政府業務を肩代わりして儲けようという戦略だ。」


「九〇年代半ば、ロッキードはアメリカ政府内のIT業務を手中に収め、コンピューター・システムの運営と膨大なデータ管理を担当するようになる。」
「ロッキード・マーティン社がアメリカ合衆国を運営しているとまでは言えないにせよ、同社は驚くほど多岐の事業に手を貸している。(中略)郵便の仕分けから、税金の計算、社会保障小切手の支払い、国勢調査の統計、さらには宇宙飛行事業の運営や航空管制まで。これらすべてを行なうために同社が作成するコンピューター・プログラムの数はマイクロソフトを上回る。」(2004年の『ニューヨーク・タイムズ』紙)"
「こうしてチェイニー夫妻は強力なチーム体制を築き上げた。夫ディックが米軍の海外インフラ事業をハリバートンが独占できるように仕向ける一方、妻リンはアメリカ政府の日常業務をロッキードが肩代わりするよう立ち回ったのである。」

・・・そして、ブッシュ
「(テキサス)州知事としては凡庸な仕事しかしなかったジョージ・W・ブッシュだが、抜きん出た分野がひとつだけある。
それは州を統治する知事に選出されながら、州政府の多岐にわたる業務、なかでもセキュリティー関連業務を民間企業に委託したことだ。
これは数年後に彼が始めることになる「テロとの戦い」の民営化を予兆させるものだった。
ブッシュ知事のもとで同州の民営刑務所は二六から四二カ所へと増加し、『アメリカン・プロスペクト』誌は、ブッシュが統治するテキサス州を「世界における民営刑務所業界の首都」と呼んだほどだった。」

ブッシュ、ラムズフェルド、チェイニーの三人で創り上げる米政府の完全空洞化
「将来大統領になる人物が州政府を積極的に競売にかけ、チエイニーが軍のアウトソーシング化に指導力を発揮し、ラムズフェルドが伝染病の治療薬の特許を取る - ここから、この三人が一緒になったときにどんな国家を創り上げるかが明確に浮かび上がってくる。
それは米政府の完全空洞化だった。」

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