2012年5月30日水曜日

ナオミ・クライン『ショック・ドクトリン』を読む(8) 「第14章 米国内版ショック療法 - バブル景気に沸くセキュリティー産業 -」(その四)

東京 北の丸公園 2012-05-24
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ナオミ・クライン『ショック・ドクトリン』を読む(8)
 「第14章 米国内版ショック療法 - バブル景気に沸くセキュリティー産業 -」(その四)

9・11と公務員の復権
「9.11がすべてを変えてしまった」

9・11によってブッシュの政府空洞化プロジェクトは窮地に陥る。
「恐怖に陥った国民の間には頼りになる強い政府に守ってほしいという願望が高まり、緒に就いたばかりの政府空洞化プロジェクトの先行きには暗雲が立ち込めた。」


「9・11でさらけ出されたセキュリティー上の失態とは、過去二〇年以上にわたり、政府業務や公共部門を切り刻んでは営利目的の民間企業に受け渡してきた結果にはかならない。
ニューオーリンズが水害に見舞われた際、公共インフラ設備の悲惨な実態が暴露されたように、9・11でも危険なまでに弱体化した国家の実態が次々とあらわになった
ニューヨーク市警察と消防署の無線連絡は救出作業の真っ最中に不通になり、航空管制官は旅客機が飛行コースを外れたことに気がつかず、テロ実行犯は契約社員が担当する空港のセキュリティー・チェックを難なく通り抜けた(こうした契約社員のなかには、空港内の飲食カウンターの契約社員よりも賃金が低い者もいる)。」


「レーガン政権が航空管制官組合を非難し、航空事業の規制撤廃を実施」して以降の「二〇年間で、すべての航空交通網が民営化され、規制が廃止され、人員が大幅に削減された結果、空港のセキュリティー・チェックを担当するのはほとんどが十分な訓練も受けず、労組に属さない低賃金の契約社員となった。
運輸省の監査長官は、ブッシュが設立した9・11委員会の席で、航空会社は飛行の安全に責任を持つ立場にありながら経費を抑えるために安全対策をすっかり怠ってきたと報告し、「その代償としてセキュリティーは深刻な脆弱さを露呈している」と述べた。
連邦航空局で長年セキュリティー対策に携わる当局者も、航空会社の安全対策は「軽視され、否定れ、後回しにされている」と同委員会で証言した。」

空港のセキュリティーを時給六ドルの契約社員に任せるなどもってのほか
「九月一二日には一転、空港のセキュリティーを時給六ドルの契約社員に任せるなどもってのほか、という空気になった。
続く一〇月には白い粉末入りの封筒が議員やジャーナリストに送りつけられ、炭疽菌パニックが拡がった。
事態が変化した今、九〇年代に推進された民営化はまったく違う様相を呈してきた。
なぜ民間の一研究所が炭疽菌ワクチン製造の独占権を持っているのか?
連邦政府は公共衛生上の緊急事態から国民を守る責任を放棄したのか?
・・・もし炭疽菌や天然痘などの危険な病原菌を郵便物や食品流通、水道を通してばらまけるのなら、プッシュが掲げる郵政民営化を推進するのは正しいことなのか?
そして、すでに解雇されてしまった食品検査員や水道検査員を復職させることはできるのか?」

フリードマンの嘆き:
「ビジネスマンが二流市民のように見られている」
企業寄りの政策に対する世の反発は、エンロンの企業スキャンダルが発覚するに及んでいっそう高まった
巨大エネルギー企業エンロンは不正取引と不正会計が明るみに出た結果、9・1 1の三カ月後に倒産に追い込まれ、それによって数万人の社員が退職貯蓄を失ったが、内部事情に通じていた役員だけは事前に現金を引き出していたのだ。
エンロンの破綻は民間企業が公益事業に携わることへの不信感を増大させたが、その数カ月前に起きたカリフォルニア州の大停電がエンロンのエネルギー価格操作によってて引き起こされたことが判明すると、不信感はさらに募った。
このとき九〇歳のミルトン・フリードマンは、世の流れがケインズ主義に引き戻されていることを憂い、「ビジネスマンが二流市民のように見られている」と不満をもらした。」

「あなたたち(公務員)は新たなヒーローだ」(ブッシュ)
「企業のCEOが次々と失脚する一方、公共部門の組合労働者 - フリードマンの反革命にとっての敵である悪人たち - の評価は一挙に高まった。・・・
アメリカ国民は突如として制服姿の公僕男女に熱い眼差しを向け、政治家も世の流れに遅れをとるまいと、あわててNYPD(ニューヨーク警察)やFDNY(ニューヨーク消防署)のロゴが入った野球帽をかぶり始めた。」


「九月一四日、プッシュは消防隊員やレスキュー隊員とともにグラウンド・ゼロに立ち(ブッシュの側近たちはこれを”メガホンの瞬間”と呼んだ)、これまで保守層がなんとか叩き潰そうとしてきた組合に所属する公務員を抱擁した。」
「公共予算削減の請は急に沙汰やみとなり、スピーチのたびにプッシュは新しい意欲的な公共政策を発表した。」

フランクリン・D・ローズヴェルトの後継者に近い存在
「事件から一一日後、『ワシントン・ポスト』紙のジョン・ハリスとダナ・ミルバンクは「経済の停滞と緊急課題であるテロとの戦い、この二つがブッシュ大統領の政策の柱となる考え方を一変した」と言い切った。
記事はこう続く。「ロナルド・レーガンのイデオロギーの継承者として大統領に就任した人物が、その九カ月後にはフランクリン・D・ローズヴェルトの後継者に近い存在となった。
(中略)景気後退に歯止めをかけようと、大統領は大規模な経済刺激対策に取り組んでいる。
ブッシュは弱体化した経済は政府が大量の資金を投入して活性化させる必要があると言ったが、この考えはまさにローズヴェルトのニューディール政策の中核をなすケインズ経済にはかならない」」
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