2015年5月5日火曜日

ナオミ・クライン『ショック・ドクトリン』を読む(126) 「第19章 一掃された海辺-アジアを襲った「第二の津波」-」(その4) : 「観光共和国」モルディブ スリランカだけでなく、タイ、モルディブ、インドネシア、インドでも「第二の津波」に襲われる

イチハツ 2015-04-30 江戸城(皇居)東御苑
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「観光共和国」 モルディブ
スリランカだけでなく、タイ、モルディブ、インドネシア、インドでも「第二の津波」に襲われる
 津波に襲われた国ではどこも「バッファーゾーン」を設け、海岸に暮らしていた人々を追放して開発事業に明け渡そうとした(インドネシアのアチェ州では政府が幅二キロメートルにわたるバッファーゾーンを定めたが、この措置はのちに撤回を余儀なくされた)

 津波から一年後、対外援助金の使途監視などで高く評価される国際開発NGOアクションエイドが、五カ国の津波被災者五万人を対象にした大規模な調査報告書を発表した。
結果はどの国でも同じだった。住民は家を建て直すことを禁じられる一方、ホテル建設は積極的に奨励され、仮設避難所は軍が監視する悲惨な留置所同然の場所と化し、本格的な復興作業はいまだほとんど行なわれず、かつての人々の生活様式は一掃されてしまった - という状況だ。・・・

問題は構造的かつ意図的なものだ、と報告書は指摘する。
「これらの国の政府は被災者に定住用の土地を提供する責任を果たしていない。土地が強奪され、沿岸地域のコミュニティーが無視されて企業利益が優先される間、政府はただ拱手傍観するか、自らそれに手を貸すかしていた」と報告書は結論づけている。

モルディブの場合:「観光共和国」と呼ぶにふさわしい国
 政府は沿岸部から貧しい住民を追放するだけでは満足せず、津波を理由にして居住に適した地域の大部分から国民を締め出すという策に出た。

 モルディブはインド洋に浮かぶ一〇〇〇島以上の島(うち住民がいるのは約二〇〇島)から成り、かつて中米諸国が「バナナ共和国」と呼ばれたことに倣えば、さしずめ「観光共和国」と呼ぶにふさわしい国だ。

モルディブ経済が依存するのはトロピカルフルーツならぬトロピカルレジャーで、観光収入が政府歳入のじつに九〇%を占める。・・・真っ白の砂浜に緑が点在する一〇〇島近い「リゾートアイランド」がホテルや船会社、または裕福な個人によって完全管理されており、なかには五〇年もの長期契約で賃借されている島もある。・・・

モルディブに君臨しているのが一九七八年に大統領に就任し、アジアで最長の政権を誇るマウムーン・アブドル・ガユームだ〔ガユームは二〇〇八年一〇月の大統領選で敗れ、三〇年の長期政権にピリオドを打った〕。ガユーム政権はこれまで反対勢力の指導者を刑務所へ送り込み、反政府系ウェブサイトに書き込みをしただけでも「反政府分子」とみなして拷問するなど、その強権ぶりが非難されてきた。政権批判する者を刑務所島に監禁して人目から隠すことで、ガユーム一派は観光ビジネスに思う存分邁進できたのである。

津波発生前、モルディブ政府は豪華リゾートへの需要の拡大に応え、リゾート島の数をさらに増やす構想を描いていた。・・・

ガユーム政権は津波発生のずっと前から、これらの住民を面積が広くて人口も多い、観光客がめったに訪れないいくつかの島に移住させようと説得を続けてきた。・・・だが、さしもの抑圧的な政府も何万人という住民を先祖伝来の土地から引き離すことはできず、「人口統合」計画はおおむね失敗に終わった。

ころが津波の発生後、ガユーム政権はただちに「住むには適さない危険な」島が多くあることが津波によって判明したと発表。政府はかつての計画よりはるかに強引な移住計画をスタートさせ、国からの被災支援金を受け取れるのは指定された五カ所の「安全な島」に移住した者に限るとの方針を打ち出した。
こうしていくつかの島からはすでに全住民が退去、他の島でも立ち退きが進行中で、政府の思惑どおり多くの土地がリゾート開発用に明け渡されつつある。

モルディブ政府によれば、世銀をはじめとする国際機関の支持と資金を得て実施されたこの「セーフアイランド・プログラム」は、国民の「大きくて安全な島」に住みたいという要望に応えたものだという。だがインフラさえ修復すれば、自分たちの島に住み続けたかったと言う住民は少なくない。アクションエイドが指摘するように、「住むところを確保し暮らしを立て直すには退去が前提条件だというのだから、国民に選択の余地はない」のだ。

リゾート業者は退去の対象にならなかったばかりか、津波から一年後の二〇〇五年一二月、ガユーム政権は新たに三五の島をリゾート用として最長五〇年の長期契約で賃借すると発表した。その一方、被災者が移住した「安全」な島では失業が増加し、島民と転入者の間で暴力沙汰が起きる事態となっていた。
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