ブッシュは、ヘリテージ財団の提言に基づきメキシコ湾岸の環境規制を撤廃
ほかにもヘリテージ財団のチームが出したいくつかの提言が、ブッシュ大統領の支持を得た。
気象学者によれば、大型ハリケーンが多発する直接の原因は海洋温暖化にある。ところがこのチームは議会に対し、メキシコ湾岸の環境規制を撤廃し、アメリカ国内における新たな精油所の建設や「北極圏野生生物保護区での石油掘削」にゴーサインを出すよう求めたのだ。こうした措置はすべて、温暖化の最大の人為的要因である温室効果ガスの排出を増大させるものであるにもかかわらず、ブッシュはハリケーン・カトリーナ災害対策という名のもと、ただちにこれらの提言を受け入れた。
アメリカ南部のメキシコ湾岸は「民間企業による政府運営」を試す実験場と化すイラクでの実験の国内バージョン)
数週間後、・・・政府から大型契約をもぎ取ったのはイラクでもお馴染みの企業だったー ハリバートン傘下のKBRは南部沿岸の米軍基地修復を六〇〇〇万ドルで請け負い、ブラックウォーターはFEMA職員を暴徒から守る仕事を託され、イラクでのずさんな仕事ぶりが批判されていたパーソンズもミシシッピー州の大型架橋プロジェクトに参入した。イラク復興事業の主要な契約企業であるフルーア、ショー、ベクテル、CH2Mヒルの各社も堤防決壊からわずか一〇日後に、被災者用トレーラーハウスを提供する契約を政府から受注。公開入札は行なわれず、契約金額は合計三四億ドルに達した。
チグリスのグリーンゾーンがアメリカ南部湿地帯へ移動してきたかのような様相:
「いや、ここもグリーンゾーンみたいなもんですよ」
ショー社は米軍イラク再建局の元責任者をハリケーン被害対策の陣頭指揮にあたらせ、フルーア社はイラク駐在の上級プロジェクト管理者をハリケーン被災地へ転属させた。「イラクでの復興事業がスローダウンしているため、ルイジアナへ人材を回せる余裕が出た」と、ある企業の代表は説明する。
イラクにウォルマートとセブン・イレブンを展開すると豪語していたニュー・ブリッジ・ストラテジーズ社のジョー・オールボーは、ハリケーン災害でもロビイストとして多くの契約取引に関わった。
イラクとニューオーリンズの状況があまりによく似ていたため、バグダッドから異動してきたばかりの傭兵のなかには、ここは本当にアメリカかと混乱する者もいた。ニューオーリンズのホテル前に立っていた武装ガードマンに、記者のデイヴィツド・エンダーズが仕事は大変かと尋ねると、ガードマンはこう答えた。「いや、ここもグリーンゾーンみたいなもんですよ」
イラクと同じ「大幅な過剰請求、無駄な出費、ずさんな管理」
ハリケーン災害関連の契約事業は八七億五〇〇〇万ドルに上ったが、連邦議会の調査委員会は「大幅な過剰請求、無駄な出費、ずさんな管理」などがあることを指摘した
(イラクで犯した間違いがそっくりニューオーリンズでくり返されたという事実は、「イラク占領の失敗は、無能力とずさんな管理に起因する単なるミスや不始末が続いたことによるものだ」という主張がもはや通用しなくなったことを物語っている。同じ間違いがこれだけ何度もくり返されている以上、それが問違いなどではない可能性について考えるべき時期に来ている)。
イラクと同じく、ありとあらゆる儲けのチャンスが活用された
巨大葬儀チェーン、サービス・コーポレーション・インターナショナル(ブッシュ選挙戦での大口献金者)の子会社ケニヨンは、家屋内や路上に残された遺体の収容作業を受注したが作業は遅々として進まず、遺体は炎天下に何日も放置された。それでも同社の営業の侵害にあたるという理由から、救援隊員や地元の葬儀社がボランティアで協力することは禁止された。ケニヨン社は遺体一体当たり平均一万二五〇〇ドルという料金を請求したが、遺体につける名札の不手際が指摘されるケースが相次いだばかりか、ハリケーンから一年近く経ってもなお、家々の屋根裏から多くの腐乱死体が発見された。
イラクと同じ、契約の内容と実際との乖離
瓦礫の除去作業を五億ドルで受注したアッシュブリット社は、伝えられるところでは一台のダンプカーも所有しておらず、下請に丸投げしたという。・・・
FEMAはニューオーリンズ郊外のセントバーナード郡に救援作業員用の簡易宿泊所を建設するという重要な仕事を、ある会社に五二〇万ドルで発注した。ところが建設は遅れに遅れ、けっきょく完成しなかった。調査の結果、「ライトハウス・ディザスター・リリーフ」というその会社が、じつは宗教団体だったということが判明した。同社の責任者であるゲイリー・ヘルドレス牧師は、「今までやったなかでこれにいちばん近い仕事は、教会の若者のためのキャンプを行なったことぐらいだ」と告白した。
イラク同じく、米政府は引き出しと預け入れの両方の機能を持つキャッシュマシーンの役目を果たした大型契約の受注によって政府から金を引き出した企業は、政府にその恩返しをする。・・・次の選挙のために資金や献身的な選挙運動員を提供するのだ
(『ニューヨーク・タイムズ』紙によれば「契約企業のトップ二〇社は二〇〇〇年以降、ほぼ二億ドルをロビー活動に費やし、選挙運動に二三〇〇万ドルを献金した」という。一方、プッシュ政権は二〇〇〇年から二〇〇六年の間におよそ二〇〇〇億ドルを請負業者への支払いに費やした)。
イラクと同じく、契約企業は地元労働者を使おうとしなかった
・・・ここでもイラクと同様、国民の税金と規制撤廃を利用して企業が創出した経済ブームを、地元住民はただ手をこまぬいて見ているほかなかった。
実作業する労働者は低賃金
例によって幾層にも連なる下請業者が取り分を手にしたあと、実際に仕事をする人々の手に入る金はほとんど残っていなかった。
ジャーナリストのマイク・デイヴィスが追跡したケースを例に取ると、FEMAは破損した屋根にブルーの防水シートをかぶせる仕事を一平方フィート当たり一七五ドルでショー社に発注したが(防水シートは政府から支給)、下請業者が次々に金を取ったあと、実際に防水シートを取り付ける作業に対して支払われたのは一平方フィート当たりわずか二ドルだった。「言い換えれば、この契約の”食物連鎖”においては、実際に仕事を行なう最下位を除くすべての段階に、異常なまでの大金が流れるということだ」とデイヴィスは書く。
移民労働者への未払い賃金
ある調査によれば、「街の修復作業にあたっている労働者の四分の一はヒスパニックが大多数を占める不法移民だが、彼らは正規労働者よりもはるかに安い貸金しか得ていない」という。
ミシシッピー州では集団訴訟の結果、数社の企業が何十万ドルという未払い貸金を移民労働者に支払うよう命じられたが、まったく貸金が支払われなかったケースもある。
ハリバートンとKBRが受注したある作業現場では、そこで働いていた不法労働者らが深夜、雇用主(孫請会社)に叩き起こされ、移民局の職員がやってくると言われたという。大部分の労働者は逮捕を恐れて逃げたが、もし逮捕されていたらハリバートンとKBRが政府契約によって建設した新しい不法移民収容所のどこかに連行されたかもしれない。
*ニューオーリンズにおける労働条件に関する徹底した調査は行なわれていないが、草の根市民団体アドバンスト・プロジェクトの推定によると、同市の移民労働者の六〇%は少なくとも一部の賃金が未払いだという。
失業者や低所得者を直接支援する数少ない政策が切り捨て
二〇〇五年二月、共和党が多数を占める連邦議会は、企業に支払った何十億ドルという契約金や減税による財源不足を埋め合わせるために、四〇〇億ドルに上る連邦予算の削減を決定する。削減の対象となったのは学生ローン、低所得者向け医療保険、食料配給券などだった。
言い換えれば、もっとも貧しい市民が二度にわたって民間企業のぼろ儲けに力を貸したということだ。一度目はハリケーン被害救済が野放しの企業へのばらまきへと変貌する一方で、弱者にはまともな雇用も公共サービスも提供されなかったとき。そして二度目は、そうした膨大な請負業者への支払いのため、全国の失業者や低所得者を直接支援する数少ない政策が切り捨てられたときである。
災害は、冷酷無情な分断社会という将来の姿を垣間見せる機会となった
災害は細分化したコミュニティー同士が壁を乗り越えて団結するという、いわば社会の水平化が見られるまれな機会だった。
ところが状況は今や逆転しつつある。災害は、冷酷無情な分断社会 - 金と人種で生存できるか否かが決まる - という将来の姿を垣間見せる機会となってしまったのだ。
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