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社説:首相らの言葉 著しく思慮欠く罪深さ
毎日新聞 2013年06月20日 02時30分
どうしてここまで思慮に欠ける言葉が政治家から飛び出すのだろう。最近、その傾向は一段と顕著になっていると思われる。
まず指摘しなくてはならないのは安倍晋三首相がインターネットの「フェイスブック」で、2002年の小泉純一郎首相(当時)の訪朝にかかわった田中均元外務審議官を名指しで批判した一件である。
きっかけは田中氏が毎日新聞のインタビューで「国際会議などで日本が極端な右傾化をしているという声が聞こえる」と懸念を示したことだ。これに対し、安倍首相は自らのフェイスブックで、なぜか右傾化問題には直接触れずに、官房副長官だった11年前、拉致被害者5人を北朝鮮側の要求に沿って北朝鮮に戻すべきだとする田中氏の主張を自らが覆したとの話を持ち出して、当時の田中氏の主張について「外交官として決定的な判断ミス」と批判した。
当時、政権内で激しい対立があったのは事実だ。しかし、首相が「彼に外交を語る資格はない」と元官僚をばっさりと切り捨てるのは、やはり個人攻撃というべきで最高権力者の発言として自制心を欠いている。
小泉訪朝後、田中氏は「売国奴」呼ばわりされ、自宅に爆発物が仕掛けられる事件も起きた。単純に敵と味方に色分けし、敵と見なせば激しくののしるような言葉がネット上ではますます横行している。今回の首相の発言がこうしたネットなどでの傾向をさらに助長しないか心配だ。
自民党の若手、小泉進次郎氏が「首相は何をやっても批判はある。宿命と思いながら結果を出すことに専念した方がいい」と首相をいさめている。その通りだ。異論に対して即座にネットで一方的に攻撃されるのでは、今後、首相に誰も意見が言えなくなる。批判を受け止める度量を持つのが真に強い指導者のはずだ。
19日になって謝罪したものの、高市早苗自民党政調会長が「福島第1原発で事故が起きたが、死亡者が出ている状況ではない。安全性を確保しながら(原発を)活用するしかない」と講演で語った発言も驚く。
東日本大震災を契機に体調不良などで亡くなり、自治体が「震災関連死」と認定した人は福島県が圧倒的に多い。ふるさとを追われ、人生が大きく変わってしまった人たちは数知れない。そんな被災者たちがどんな思いで発言を受け止めるか。高市氏はまったく考えもせずに軽々しく口にしたとしか思えない。
攻撃的な言葉を歓迎する風潮が今の社会にある。本音をあけすけに語るのが大事だという人も多い。だが人には、とりわけ政治家には越えてはいけない一線がある。中でも他者を思いやるのは最低限のルールだ。
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