京都新聞 社説
橋下氏問責否決 政治は筋を通してこそ
日本維新の会共同代表の橋下徹大阪市長に対し、市議会の野党会派が提出した問責決議案は、可決の見通しから一転、否決された。可決されれば市長は辞職するという維新側の揺さぶりで野党の腰が砕け、結束できなかったからだ。
旧日本軍の従軍慰安婦を「必要だった」とし、米軍に風俗店利用を勧めた橋下氏の発言には今なお内外から厳しい非難が相次ぐ。チェック機能を果たすべき議会が、人権感覚を欠く一連の発言にノーを突き付けられないとは情けない。
出直し市長選となれば、7月の参院選と同日が見込まれた。しかし、各党とも準備が整わない選挙を戦いたくない。しかも橋下人気は根強く、肝心の参院選で維新の会を利することになりかねない-そんな計算も働いたようだ。
市民感覚とかけ離れた、政治の世界でしか通じない論理である。傍聴席の市民が「ばかにするな」と声を荒らげたのも分かる。
問責決議案は自民党、民主系、共産党の3会派が提出した。「市長としての職責を全うしているとは言い難い」とし「自らの政治責任を自覚した言動」を求めた。
これに対し、維新の会幹事長の松井一郎大阪府知事は「可決は辞めろということ」と、橋下氏の辞職と出直し選挙をほのめかした。この強気の姿勢に、市長選を避けたい各党が動揺してしまった。
鍵となったのは、大阪で維新の会と協力関係にある公明党だ。問責決議案に賛同する当初の方針を撤回、タイトルを替えただけの別の決議案を出した。結果的に、いずれの決議も通らなかった。
議会後、橋下氏は「中身の同じ決議案への賛成が過半数に達したことは重く受け止める」とした。その一方で「(発言を)誤解したのは報道機関」「自分の言っていることは正しい」と開き直るありさまだ。これでは反省どころか、勝利宣言にさえ聞こえる。
発言記録から浮かび上がるのは橋下氏の人権感覚のずれである。発言が問題化してから、さまざまな言い訳やメディア批判を繰り返しているが、女性を兵士の性的欲求を満たす手段として肯定した事実は覆らない。その意味で、慰安婦発言と風俗発言は一連といえる。
にもかかわらず、問責決議案は橋下発言の中身を非難するのではなく、市政混乱の責任を追及しただけだ。超党派で結束するための妥協の産物だが、それにも失敗しては無残だ。市議会には気骨を示してほしかった。
選挙にらみの駆け引きが最優先の政治に、民意と良識を反映した良き統治は期待できまい。猛省すべきは、橋下氏も、市議会もだ。
[京都新聞 2013年06月01日掲載]
0 件のコメント:
コメントを投稿