2013年11月5日火曜日

神戸新聞 社説 積極的平和主義/軍事面に偏っていないか : 「「積極的」という言葉に、日本が堅持してきた専守防衛の枠を踏み越えようとの狙いが込められているとしたら、・・・」

神戸新聞 社説 2013/11/04
積極的平和主義/軍事面に偏っていないか

 「積極的平和主義」。安倍晋三首相が最近、この言葉を盛んに口にするようになった。国連総会や臨時国会の所信表明演説でも取り上げ、自身の考えを披露した。

 年内の策定を目指す外交・安全保障の指針「国家安全保障戦略」の基本理念として掲げ、政権のキャッチフレーズとして使われている。

 戦後の日本には外交と安全保障を統合した国家戦略がなかったとされるだけに、発言には力がこもる。

 「積極的に世界の平和と安定に貢献する国になる」と首相は語る。そのことに異論はない。日本が激動する21世紀の国際社会でどんな役割を果たせるか、国の進むべき道を考える上で大きな意味がある。

 ただ、首相自身はどんな「貢献」を思い描いているのか。発言にじっくり耳を傾けると、むしろ「平和国家」としての在り方を見直そうとしているのでは、との疑念が膨らむ。

 折しも、政府は集団的自衛権の行使容認に向けて従来の憲法解釈の変更を検討している。与党の公明党に配慮して結論は来春に持ち越す方針だが、安倍首相がかねて実現に意欲を示してきたテーマだ。

 「積極的」という言葉に、日本が堅持してきた専守防衛の枠を踏み越えようとの狙いが込められているとしたら、話は全く違ってくる。

 実際、国連演説では次のように語っている。「PKOをはじめ、国連の集団安全保障措置に積極的に参加できるよう、図ってまいります」

 国連の安全保障活動は重要だが、自衛隊の参加には制約がある。復興支援や和平の環境づくりなど、さまざまな貢献の仕方があるはずだ。

 憲法解釈の変更自体を疑問視する専門家は少なくない。国の根幹が時の政権の思惑で左右されかねないからだ。その議論をする前に多国籍軍参加に意欲を示したと受け取れる発言は、明らかに行き過ぎている。

 積極的平和主義はもともと、ノルウェーの平和学者ヨハン・ガルトゥング氏らが提唱してきた言葉である。本来、貧困や搾取、差別など、争いや暴力につながる問題を取り除く地道な取り組みを指す。

 国連総会で、安倍首相は女性や難民などへの支援も約束した。力による封じ込めでなく、紛争の原因を見極めて当事者同士の対話と和解を後押しする。平和的な解決を促す姿勢こそ、日本にはふさわしい。



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