京都 鴨川 2015-12-31
*窓 茨木のり子
1
輝く額縁
黒いカーテンをひくいわれもなく
灯りを細めるいわれもない
うなじの細い子供や
すがすがしい眉の少女が
水族館の小魚のように
ひらひらと 窓をよぎる
海のものとも
山のものともわからぬ者らが
なにやら一心不乱になっているが
行きずりの窓に
ちらりと見えるのはいい・・・
道ばたの暗闇で
ひやかしの口笛が
ピイと鳴る
あれは私の今日のお祈り
2
烏たちは鳥の唄をうたい
花々は黙って花の香気を薫らせる
どうして人間だけが
人間の唄をうまく唄えず
ぎくしゃくしてしまうのだろう
恋をするような しないような
喧嘩をするような しないような
新しい星を飛ばすような 飛ばさないような
大都会のてっぺんから覗くと
人間はみんな囚人であるらしいことが
よくわかる
もっとみずみずしいもののことを
憶いなから
若い兄弟はぼんやり立っている
第二詩集『見えない配達夫』(1958年、飯塚書店)所収
どうして人間だけが、自然な、みずみずしい唄をうたえないのだろうか。
どうして自由に、のびのびと振舞うことが出来ないのだろうか。
どっちつかずな生き方、不自由な生き方、それでいいのだろうか。
若い兄弟は窓のそばで、そんなことを考えてぼんやり立っている。
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