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法律も無視!? 教科書をめぐる都教委と自民党の横暴
サイゾー 8月26日(月)15時18分配信
すでに一部メディアで報じられている通り、6月27日に開かれた東京都教育委員会(以下、都教委)の定例会で、『高校日本史A』『同B』(共に実教出版)という2冊の教科書について、国旗掲揚・国歌斉唱に関する記述(後述参照)を理由に「使用は適切でない」とする「見解」が提示された。
木村孟委員長が「私から教育長【編註:都教委の事務執行責任者】に対し、教育委員の意見を踏まえて見解をまとめ、校長に周知するよう指示した」と述べると、それまでは活発に発言していた委員たちは全員沈黙。
下を向く委員もいるなど重苦しい空気のなか、文部科学省の検定に合格した教科書について、都教委が学校側に対し不採択を強要するという前代未聞の「見解」が決定され、直ちに全都立高校校長に伝達された。
都教委は、実教出版の教科書を「使用不適切」とする理由について、本文ではなく側注の次のくだりを挙げている。
「国旗・国歌法をめぐっては、日の丸・君が代がアジアに対する侵略戦争ではたした役割とともに、思想・良心の自由、とりわけ内心の自由をどう保障するかが議論となった。政府はこの法律によって国民に国旗掲揚、国歌斉唱などを強制するものではないことを国会審議で明らかにした。しかし、一部の自治体で公務員への強制の動きがある」
この「一部の自治体」というのが東京都だと考えた都教委が、記述に反発した格好だが、ことの発端は1年前にさかのぼる。
「昨年、都教委は、実教出版の教科書を使う可能性のある都立高校17校の校長に個別に電話し、使わないよう圧力をかけました。圧力に抵抗した校長には4回も電話し、採択をゼロにもっていったのです」(都立高校社会科教員)
実教出版の日本史教科書は全国シェア14%であり、東京都だけ「採択ゼロ」は異様といえる。教科書出版社社員は、今回の都教委の決断について、「教科書採択のプロセスについて、教員や保護者から不審の声があがる中、もうコソコソやるわけにはいかないと、今年は居直るように『見解』を出したのでしょう」と解説する。
その都教委は6月27日付毎日新聞の取材に対し、もし高校が実教出版の教科書を選んだ場合には「最終的に都教委が不採択とすることもあり得る」と答えるなど、強い姿勢をみせている。
そもそも高校の教科書は、どのように選ばれるのか? 都立高校のベテラン教員が説明する。
「『うちの高校で学ぶ生徒たちにとって、どの教科書がいいか?』を教科担当の教員たちが検討し、学校ごとに選定します。例年7月22~23日頃、選定結果を都教委に報告します。その後、選定理由に関して都教委からヒアリングが行われることもありますが、ほとんど形式的なもので、8月下旬に各高校の希望通りの教科書が(都教委によって)採択されるという流れです」
誰が高校教科書の採択権を持つかについて法律上の明文規定はないが、実際には、先の教員の話にあるように、それぞれの高校の現場が選んだ教科書がそのまま採択されてきた。それゆえ、冒頭の都教委の「見解」決定には「現場に衝撃が走った」(都立高校関係者)という。
そして7月9日には大阪府教委も、来年度の教科書の選定にあたって、都教委と同じ側注の記述を挙げて、「府教育委員会はこの記述は一面的なものであると考えます」とする「見解」を、府立高校の校長・准校長に送った。
こうした動きの影響は他県へも広まり、神奈川県の高校教員は、「先日校長から『実教出版はまずいので変えてくれ。(本校でそれがいいと)選んでも(教育委員会で)採択されないかもしれないし、学校名が公表され、街宣車が来るなど騒ぎになる恐れもある』と言われました。その前日に、教育委員会から話があったようです」と証言する。
では、都教委や大阪府教委が問題視する「一部の自治体で公務員への強制の動きがある」という実教出版の記述に問題はあるのだろうか?
都教委高校教育指導課は、「強制」という言葉に異議があると、次のように説明する。
「(学校行事での)国旗掲揚・国歌斉唱の適正実施は、強制ではなく教員の仕事です。国歌斉唱などの職務命令が合憲だと最高裁も認めています」(高校教育指導課)
それに対し大阪府教委の見解はやや異なり、「教員に職務命令を出していますから、言葉はきついが、強制といえばいえるでしょう。ただ、それには学習指導要領という根拠があり、最高裁でも認められたという点も書いてほしかった」(同高等学校課)と話す。
命令を出したのだから強制といえる。これが常識的な理解だろう。しかし、現場で起きたのは命令だけではなかった。「国旗・国歌法ができたあと、状況はガラッと変わった。都教委は通達を出し、君が代斉唱の際に起立しない教員などに苛烈な人事処分を乱発していったのです」(前出・都立高教員)
日の丸・君が代問題に詳しい澤藤統一郎弁護士は、「都教委は実教版の記述が正確だからこそ、骨身に沁みて痛いし、隠したいんでしょう」と見る。
■日の丸・君が代強制は合法ではない?
では、「(日の丸・君が代徹底の)職務命令が最高裁で合憲と認められた」という大阪府教委の主張は正しいのか? 平成24年1月16日の最高裁判決の「判示事項1」は、「公立養護学校の教員が同校の記念式典において国歌斉唱の際に国旗に向かって起立して斉唱することを命ずる旨の校長の職務命令に従わなかったことを理由とする停職処分が、裁量権の範囲を超えるものとして違法であるとされた事例」となっている。
06年に「君が代」斉唱の際の不起立を理由に1カ月間の停職処分を受けた、都立高校の教員・河原井純子さんが起こした国家賠償請求訴訟で、12年、東京高裁は都に賠償30万円の支払いを命じた。今年7月12日、これを不服とした都による上告を最高裁が不受理と決め、河原井さんへ賠償金支払いを命じた東京高裁の判決が確定した。
こうした”違法な”処分を平気で行う体質の都教委は、今度は日本史教科書の採択においても、自らの保身のために、法的根拠のない「特定教科書の不採用」を高校の教育現場に強制しようとしている。教育行政を担う組織のふるまいとしては、あまりにも遵法意識が欠如しているとのそしりは免れない。
一方政治に目を向けてみると、教科書をめぐっては、政権与党の自民党も妙な動きを見せている。同党は教科書検定見直しの検討にあたり、5月28日、党教育再生実行本部の「教科書検定の在り方特別部会」に教科書を出版する東京書籍、実教出版、教育出版の社長や編集責任者を党本部へ呼びつけ、聴取を行った。そこでは同党議員から、慰安婦問題、南京事件、竹島などの領土問題、原発問題などに関する教科書の記述について、「経緯の説明が足りない」「偏っている」などの注文も出たという。もちろんこれらの記述はすべて、文科省の検定を通ったものだ。
この聴取に対し、日本出版労働組合連合会(出版労連)は6月3日、政権与党による出版社への「圧力」だとし、自民党総裁の安倍晋三首相に抗議文を送った。
出版労連の吉田典裕・教科書対策部長は、「海外では学校による教科書選択の自由化が進む中で、日本は例外的状況です」と懸念を示す。
教科書を選定する学校の権利を否定し、文科省の検定に合格した特定の教科書を採択から排除するという「異常事態」(前出・都立高校関係者)は、自らの政治信条や保身のために、教科書を通じて教育現場へ”介入”しようと目論む動きの前兆なのか。教科書をめぐる攻防から、今後目が離せない。
(文/北 健一)
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