官製相場の危うさ(『朝日新聞』経済気象台2014-07-26)
歴代の首相の中でも、安倍首相は特に株価の動向に敏感のようだ。
というのもアベノミクスの評価や内閣支持率は、株価水準に大きく左右されると首相は考えているからに他ならない。
市場はごく短期的な結果を重視しがちであるから、首相は次々とアピールする策を打ち出さざるを得なくなっている。
その一つが、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の国内株の運用比率を変え、株高に誘導しようとする発想である。
9、10月にも運用比率の上限18%を、20%に高めようとしている。
年金積立金の運用資産は127兆円(2014年3月末)と巨額なもので、1%の運用比率増でも1兆円強が市場に流れ込むことになる。
実はすでにこの動きを先取りして、運用の目安とする「12%」を上回り16・5%と、現行の上限に近づいている。
最近の株高傾向は、この影響による官製相場といえよう。
そもそも株高は、企業の業績向上を反映してなされるべきものである。
このような実態が何ら存在しない官製相場ともいうべきものには危うさが付きまとう。
第1に、仮に運用比率が上限の20%まで引き上げられたとして、短期的には株価上昇につながっても、その効果は持続しないであろう。
このような目先だけの株価対策は本末転倒というべきである。
第2に、国民の安心と安全のための年金を市場のリスクにさらすことになろう。
株安に転じ貴重な国民資産を毀損する恐れが出てくる。
そして第3に、国内株の保有が高まることは、国内債とりわけ国債の比率が低下することを意味する。
将来長期金利上昇(国債価格減)を生じ、アベノミクスの「出口戦略」の障害となりかねまい。
(安曇野)
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