現代ビジネス
経済の死角
「一度決めたこと」を変えられない人たち「東大出」財務官僚が日本を破壊する
大特集「消費税10%」で、日本と安倍政権が終わる第2部
2014年10月02日(木) 週刊現代
消費税10% 安倍よ、麻生よ、そろそろ気付いたほうがいい
■聞く耳を持たない
「消費再増税を先送りにする? 財務官僚はそんなこと、これっぽっちも考えていない。すでに再増税は法律で決まっていること。仮にこれを延期することになれば、年明けの通常国会に改正法案を提出しなければならない。そうすると、安倍政権は財政健全化や社会保障の充実のための財源の確保との矛盾を厳しく問われ、政局化する。安倍(晋三)総理がそんな政治的リスクを取る判断をすることはありえない」
ある財務省有力OBはこう断言する。だが、前章でも見たように、8%への消費増税でも、日本経済は瀕死の状態だ。
信州大学教授の真壁昭夫氏が言う。
「今年の4月以降、家計の消費支出は4ヵ月連続で減少し続けています。こうした状況下で、消費税をさらに上げることは正気の沙汰とは思えません。消費税率を上げても、消費が低迷して企業業績が悪化すれば、税収も結局は減ってしまいます。財政にとってもマイナスです。つまり、何のメリットもない」
安倍政権の足元からも消費再増税への懸念は噴出している。アベノミクスの立て役者とも言われる山本幸三代議士は、ウォール・ストリート・ジャーナルの取材に対し、「消費増税を延ばしたほうがいいと思い始めた」とコメント。また、本誌前号では内閣官房参与で、元財務官僚の本田悦朗氏が「1年半遅らせるべき」だと発言している。
だが、権力の中枢を担う東京大学出身の財務官僚たちが、内外からの増税反対の大合唱の声に耳を傾けることはない。彼らにとって消費税10%は「一度決めたこと」。それを覆すことは自らの過ちを認めることになるから、どんな異論があろうとも実行する。その結果、庶民の暮らしがますます困窮しようと知ったことではない。ある財務省幹部はこう言い放つ。
「結局、代議士先生は大型経済対策を盛りこんだ補正予算などの『人参』をぶら下げれば、それに食らいつく。今回、総務会長に就いた『ミスター公共事業』こと二階(俊博)氏を筆頭に、自民党内の『土建屋思考』は根強い。来春の統一地方選で傘下の地方議員を優位にするためにも、地元に手厚い予算配分を行えば、消費増税には結局賛成せざるを得ない。本田さんが反対しているって? あの人はたんなる目立ちたがり屋(笑)。景気対策のために日銀が追加で金融緩和を行えば、『俺の手柄』だと胸を張って、矛を収めますよ」
■責任は取らない
そんな財務省のトップに君臨するのが、香川俊介事務次官だ。'79年に東大法学部を卒業後、旧大蔵省に入省。主に主計畑を歩み、木下康司氏('79年入省、東大法)の後任として次官に昇進した。「10年に一人の大物次官」と呼ばれた勝栄二郎元次官('75年入省、東大法)の右腕として、現在の消費増税の道筋をつけた立て役者の一人である。
その香川氏が8月末、首相官邸を訪ねた。
「この際に香川次官は消費再増税を前提に、考えられる景気対策のメニューについて説明しました。財務省も消費税を10%にすれば、庶民の財布のヒモが締まり、GDPの6割を占める個人消費が冷え込むことは懸念しています。そのため、年末に打ち出す予定の経済対策には、公共事業に加え、個人向けの負担軽減策を盛り込む必要があると考えている。今後は公明党が主張する軽減税率の限定的導入案や、低所得者向けの給付金の規模を議論する見通しで、安倍総理も財務省の説明に納得したようです」(全国紙経済部デスク)
第一次安倍内閣で首相秘書官を務め、安倍総理の「盟友」と言われる田中一穂主計局長も、総理の説得工作に乗り出す。田中氏もまた、'79年に東大法学部を卒業し、大蔵省に入省したエリート官僚。香川次官、木下前次官と合わせて「花の'79年入省組」と呼ばれ、すでに次期次官に就任することが内定している。
その田中氏が安倍総理を説得するための秘策が、「15ヵ月予算」だった。
「田中主計局長は8月19日に安倍総理の別荘に呼ばれ、ゴルフをともにしています。この際、景気の下支えのための'14年度補正予算について説明した。現在財務省は、総額5兆4000億円に上った昨年度の補正予算を超える規模の予算案を組む作業を水面下で進めていますが、それを年明けの通常国会で審議し、続けて'15年度予算案に移る。15ヵ月間が一体となった大型予算案というわけです。
一般会計総額は、過去最大だった'14年度を上回る規模になるのは確実で、そこに『地方創生』などを名目とした公共事業を盛り込む」(前出・経済部デスク)
公共事業のバラマキという「いつか来た道」にすがりつく。かつての成功体験に固執するのも、東大卒エリートの習性と言える。
今回の人事で幹事長に就任した谷垣禎一氏も、そんな財務官僚に取り込まれた一人だ。就任直後こそ消費再増税に慎重な態度を見せた。ところが9月12日に、消費増税の三党合意に至った当時の民主党代表の野田佳彦元総理と公明党の山口那津男代表と「消費増税同窓会」を行ったことを明かし、消費増税を予定どおり行うべきだとの考えを改めて主張した。
「谷垣さんは自民党総裁時代に財政再建に向けた消費増税の三党合意にこぎつけたのが、政治家として唯一誇れる実績。先送りすれば自己否定になる(ちなみに谷垣氏も東大法学部出身)。その上、幹事長として来春以降の選挙の責任は谷垣氏が負う。公共事業など、地方の景気対策は喉から手が出るほどほしいでしょう。谷垣氏は財務省にとっては扱いやすいタマなんです」(財務省大臣官房筋)
政治家は俺たちの言いなりに動いていればいい—。財務官僚の言動からは、そんな傲慢ささえ透けて見える。だが、彼らが行っているのは、増税のためにバラマキを推進する本末転倒の政策にすぎない。急ブレーキと同時にアクセルを踏み込む愚策が、日本経済を破壊することは間違いない。
思い出してみてほしい、これまで財務省が行ってきた経済政策が何一つ功を奏さなかったことを。'97年に当時の橋本龍太郎総理の振り付けをして、消費税を3%から5%に引き上げたのもその一例。その結果、日本経済はデフレ不況に見舞われた。だが、この責任を東大出の財務官僚が取ったなどという話は、ついぞ聞いたことがない。そして今、ようやく見え始めた希望の光を財務省は早くも吹き消そうとしているのだ。
昭和女子大学グローバルビジネス学部准教授の保田隆明氏が財務省の支離滅裂ぶりを指摘する。
「財務省は財政再建を掲げているのですから、4月の増税の次にするべきは歳出を減らすこと。ところが、今の政府は歳出カットの話をせず、女性を登用したら助成金を設けるとか、耳触りのいいことばかりを言って大盤振る舞いをしています。消費税を現在から2%上げたところで、税収は5兆円ほど増えるだけ。1200兆円を超える莫大な財政赤字を考えれば、『焼け石に水』にすぎません」
■まさに「ブラック国家」
財務省の言いなりにならず、安倍政権は本来どう対処するべきなのか。経済評論家の山崎元氏がこうアドバイスする。
「むしろ判断を年末まで引き伸ばさず、『消費税率の引き上げは1年凍結します』と明言したほうが、企業の設備投資や消費者マインドを冷やさないためにいいのではないか。1年の先延ばしなら財務官僚の抵抗も抑えられるでしょうし、デフレ脱却の目処も立つので国民も説得しやすい。しかも支持率の急落も避けられるから、選挙を戦う上でも有利です。安倍さんに『黒田官兵衛』がついていれば、そう進言するのではないでしょうか。ただ、日銀の黒田さんは、財務省の意向を強く受けているようなので、そこは不安要素です」
山崎氏が指摘するように、日銀の黒田東彦総裁('67年入省、東大法)は、古巣・財務省の悲願である消費税率の2ケタ実現に協力を惜しまない構えだ。
「すでに日銀は、限界まで国債を買い入れています。次の追加緩和策は、日銀がETF(上場投資信託)を購入して、株価を下支えすることが主眼となります」(前出・経済部デスク)
株価を上昇させて、景気回復を「演出」する一方、消費再増税を容認させるために、財務省は他の省庁と一体になり、国民への「恫喝」さえ開始している。
「消費増税を国民に納得させる手段として、財務省は社会保障給付金の抑制・削減を考えている。いざとなったら、消費増税ができなければ、年金や医療補助金がカットされると、国民を脅せばいい」(財務省OB)
実際、財務省と足並みを揃えるように、厚労省が財源不足を主張し始めた。このまま8%に消費税が据え置かれるなら、子育て支援の財源のうち3000億円が不足するという試算を明らかにしたのだ。
日本大学国際関係学部教授の水野和夫氏が言う。
「国家がなぜこれほど多額の借金をできたかというと、徴税権があるからです。財務省は国税庁を通じ、国民の労働を担保に借金をしている。それでいながら、借金が返せないほどにまで膨らむと、発言権の小さい弱い層から有無を言わせず取り立てる。ブラック企業という言葉がありますが、今の日本はまさにブラック国家です」
今が引き返す最後のチャンスだ。東大出の財務官僚のちっぽけなプライドが、私たちの社会をぶっ壊す日が目前に迫っている。
「週刊現代」2014年10月4日号より
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