工芸館(旧近衛師団司令部) 2014-10-04
*第15章 コーポラティズム国家 - 一体化する官と民 -
おかしな話だし、ばかげている。われわれのやることすべてが金目当てだなんて、とんでもない考えだ。学校へ戻って勉強しなおしたまえ。- ジョージ・H・W・ブッシュ
息子のブッシュ大統領がイラクに侵攻したのはアメリカ企業に新たな市場を創出するためではないか、という非難に応えて
彼は公共の利益と企業の利益を混同している。
- サム・ガーディナー元空軍大佐、ディック・チエイニーに言及して(二〇〇四年二月)
「国防権限法」付帯条項
2006年の中間選挙の最中に、ジョージ・W・ブッシュ大統領が署名。
「国家非常事態」が起きた際、戒厳令を発令し、州知事の要請に優先して「州兵を含む兵力を召集」し、「治安回復」と混乱の「鎮圧」を図る権限を大統領に与えるもの。
非常事態とは、ハリケーンや大衆抗議行動、あるいは「公衆衛生上の緊急事態」の場合もあり、そうなると軍隊を検疫作業や供給ワクチンの確保にあたらせることも可能になる。
これ以前に大統領が戒厳令を発令できたのは内乱発生時のみだった。
この法改正に懸念を表明したのは民主党上院議員のパトリック・リーヒーただ一人
この法改正の勝者は、とてつもない権限を獲得した政府と絶対的な保障を獲得した医薬品業界
「なんらかの病気が大流行すれば、軍隊が出動して企業の研究所や薬品供給の安全を守り、検疫作業にあたることになった・・・
ラムズフェルドがかつて会長を務め、鳥インフルエンザ治療薬タミフルの特許を持つギリアド・サイエンス社にとっても、これは朗報だった。この新法成立に加え、鳥インフルエンザの脅威が継続したおかげもあってか、タミフルの売上げはさらに躍進し、ラムズフェルドの退職後も同社の株価は五カ月で二四%上昇した。」
企業利益と国家利益
このギリアド社のケースと同じく、「ハリバートンやベクテル、そしてエクソン・モービルをはじめとする石油会社などの受託業者の利害は、ブッシュ・チームがイラク侵攻と占領にあれほど熱心だったことにどれほど関係していたのか、という問いも生じる。
しかし、こうした疑問に明確な答えは得られない。
企業利益と国家利益を巧妙に結びつけてきたせいで、どうやら当事者である彼ら自身も両者を区別できなくなっているからだ。」
スティーヴン・キンザー『オーバースロー(転覆)』(2006年)の指摘
「『ニューヨーク・タイムズ』紙の元特派員スティーヴン・キンザーは、二〇〇六年に出版した『オーバースロー(転覆)』のなかで、過去一〇〇年間に海外のクーデターを命令・指揮したアメリカの政治家の動機はなんだったのかを探っている。
一八九三年のハワイから二〇〇三年のイラクに至るまで、アメリカが関与した各国の政権交代劇を調査したキンザーは、多くの場合、そこには三つの明確な段階があると指摘する。
第一段階では、アメリカに本社を置く多国籍企業がその国の政府から「税金の支払い、または労働法や環境法の順守」を要求された結果、企業収益が脅威にさらされ、「ときにその企業は国有化されるか、所有地や資産の一部を売却するよう求められる」。
次に、企業の苦境を伝え聞いたアメリカの政治家が、それを自国に対する攻撃だと解釈する。「政治家たちはその間題を経済的なものから政治的・地域戦略的なものへと転換する。アメリカ企業を妨害し、困らせるような政権は反米的・弾圧的・独裁的だと決めつけ、おそらくはアメリカを弱体化させようという外国の権力や利益集団の手先だとみなすのだ」。
第三段階では、政治家は国民に介入の必要性を納得させようとする。このとき事態は善と悪との対決という図式に単純化され、これは「抑圧されたかわいそうな人々を暴力的な政権から解放するチャンスにほかならない。なぜならアメリカ企業を痛めつける政権が独裁的でないはずはないからだ」ということになる。」
ジョン・フォスター・ダレス(アイゼンハワー政権の国務長官)の場合
「ジョン・フォスター・ダレスは、人生の大半を有能な国際企業弁護士として送り、世界有数の大企業数社の代理人として外国政府との折衝にあたった。
ダレスの伝記を執筆した何人もがキンザーと同様、彼が企業利益と国家利益を区別できなかったと結論づけている。
「ダレスは生涯にわたり二つの執念を抱き続けた。ひとつは共産主義との戦い、もうひとつは多国籍企業の権利を守ることだ」とキンザーは書く。「彼の頭の中ではその二つは(中略)「表裏一体の関係にあり、互いに補強しあっていた」。
つまり、ダレスにはこの二つを区別する必要はなく、たとえばグアテマラ政府がユナイテッド・フルーツ社の利益を侵害する行動に出れば、それは事実上アメリカに対する攻撃であり、軍事力行使に値することだとみなすのである
(一九五四年、社会改革を進めていたグアテマラ政府はユナイテッド・フルーツ社の土地没収を決定、これに怒ったアメリカ政府がCIAを使ってグアテマラに親米独裁政権を誕生させた)。
ブッシュ政権とダレスの時代との大きな違い:
戦争・クーデタなど惨事そのものが目的になり、高官たちがそこから自己の利益を得る
「つい最近まで企業のCEOだった人間がひしめくプッシュ政権もまた、テロリストとの戦いと多国籍企業の利益保護という二つの執念を追い求めており、利益の公私混同に陥りやすい。
だがダレスの時代とは大きな違いがある。
ダレスが肩入れした多国籍企業は海外で鉱業、農業、金融、石油といった事業に莫大な投資をしており、事業を行なうにあたって安定した収益性の高い環境(投資法が緩やか、従順な労働力、土地の強制収用などの唐突な手段に出ないなど)を確保するという共通の目的があった。クーデターを起こしたり武力介入を行なうのは目的達成のための手段であって、目的そのものではなかった。」
「「テロとの戦い」を立案した元祖・惨事便乗型資本家たち・・・。彼らにとっては、戦争やクーデターなどの惨事が目的そのものなのだ。
チェイニーやラムズフェルドが、ロッキードやハリバートンやカーライルやギリアドにとっての利益と、アメリカ(実際には世界)にとっての利益を同一視したとき、そこには世にも恐ろしい結果が伴う。なぜならこれらの企業にとって、戦争、疫病、自然災害、資源不足といった大異変は確実に利益増をもたらすからだ。ブッシュ政権以降これらの企業資産が劇的に増加した理由もそこにある。
こうした同一視による彼らの行動がさらに危険なのは、ブッシュ政権の高官たちが戦争と惨事対応の民営化という新時代を導く一方で、惨事便乗型資本主義複合体における自分たちの権益を - かつてないほどの度合いで - 維持し続けたからだ。こうして彼らは、自ら惨事を引き起こすことに加担しつつ、同時にそこから利益を得ていたのである。」"
ラムズフェルドの場合
「国防長官就任を受諾した際、ラムズフェルドは政府高官の義務として、個人的に所有する株のうち、在任中に下す決定によって損得の生じる可能性のある株をすべて処分することを求められた。」
「ラムズフェルドは、直接所有していたロッキードやボーイングをはじめとする軍事関連企業の株を売却し、最大で五〇〇〇万ドル相当の株を白紙委任する一方、防衛株やバイオテクノロジー株に特化したいくつかの民間投資会社の所有権は全部または一部保持した。」
「かつて会長を務め、タミフルの特許を保有するギリアド・サイエンス社の株に関しては、ラムズフェルドは頑として譲らなかった。ビジネス上の利益と公僕としての義務のどちらかを選ぶよう求められても、それをきっぱり拒否したのだ。疫病発生は国家安全保障上の問題であり、したがって国防長官の職務に直接関わる。公私の利益が明らかに衝突するにもかかわらず、彼は在任の全期間を通して八〇〇万ドルから三九〇〇万ドル相当の同社の株を手放そうとしなかった。」
「就任初年度の大半にわたり持ち株の処理に手間取っていたラムズフェルドは、いくつもの重大な政策決定に関与しないことを余儀なくされた。AP通信は「ラムズフェルドはエイズ問題に関する国防総省の会議への出席を見合わせた」と報じ、GE、ハネウェル、ノースロップ・グラマン、シリコンバレー・グラフィクスなど大手軍事企業が関わる数件の大型合併・買収に、連邦政府が介入すべきかどうかを決定するトップレベルの会議にも彼は姿を見せなかった。広報担当者によれば、ラムズフェルドはこれら軍事企業数社と経済的関係を持っていることが判明したという。」
「六年間の在職中、話題が鳥インフルエンザやその治療薬購入に及びそうになったときは必ず、彼はその場を中座することになっていた。「ギリアド社に直接影響を及ぼすことが予測される」決定にはいっさい関与しないというのが、株の保持を認める合意文書の取り決めだったのだ。
とはいえ政府内の同僚たちは、ラムズフェルドの利権に大いなる思いやりを示した。二〇〇五年七月、国防総省は五八〇〇万ドル相当のタミフルを購入、数カ月後には保健社会福祉省も一〇億ドル相当のタミフルを注文すると発表した。」
「株売却を拒否したことは、間違いなくラムズフェルドに利益をもたらした。二〇〇一年一月の就任時にもしギリアドの株を売却していたとすれば、彼が手にしたのは一株当たりたかだか七ドル四五セントにすぎなかった。だが鳥インフルエンザや生物テロの脅威が続き、ブッシュ政権が同社に莫大な支払いを決定する間も株を手放さなかったため、彼が辞任した時点での株価は一株六七ドル六〇セントと、約九倍に膨れ上がった(二〇〇七年四月には八四ドルにまで上昇)。つまりラムズフェルドは、就任当時よりもはるかに金持ちになって職を辞したことになる。」
*
*
*
0 件のコメント:
コメントを投稿