2014年8月17日日曜日

辺野古ブイ設置  民意無視は許されない (京都新聞社説) / 辺野古移設 有無を言わせぬ強引さ (信濃毎日新聞 社説)

京都新聞 社説 
辺野古ブイ設置  民意無視は許されない

 防衛省は沖縄県名護市の辺野古沖で、海底ボーリング調査に向けてブイを設置した。秋にも、米軍普天間飛行場を移設するための埋め立て工事に着手する。

 11月の沖縄県知事選の前に既成事実を積み上げ、反対論を封じ込めようという政府の思惑は露骨である。「民意を無視し続け、強硬に進めてきた。政府の暴挙に強く抗議する」という、稲嶺進名護市長の怒りはもっともだ。こんなやり方で、移設に県民の幅広い理解を得られるはずがない。

 10年前のボーリング調査は反対派の抵抗で中断に追い込まれた経緯がある。そのため政府は今回、周到な準備を整えて臨んだ。

 埋め立てる海域の周辺に広大な「臨時制限区域」を設定し、反対派の船が自由に航行できないようにしたうえ、全国から海上保安庁の巡視船やボートを集め、警備を固めた。許可なく立ち入れば、日米地位協定に伴う刑事特別法違反による摘発さえ辞さない構えだ。

 住宅密集地にあり、危険と隣り合わせの普天間の移設は喫緊の課題だ。これを理由に政府は、日米合意に基づく2022年移設に向け工事を急ぐ必要があるとする。

 しかし、沖縄県民の本当の願いは県外移設である。今年1月の名護市長選の結果をみても、辺野古移設に地元の理解が得られていないことは明らかだ。

 県知事選では、辺野古移設を容認した仲井真弘多知事に対抗し、移設反対の翁長雄志那覇市長が出馬する見通しで、移設問題は最大の争点になる。沖縄の民意を見極める絶好のチャンスである。

 にもかかわらず、安倍政権がこれほど強引に作業を進めようとするのは、知事選の行方に自信を持てない焦りの表れだろう。日米合意のスケジュールに沿って移設が進まなければ、米国の信頼を失ってしまうという危機感もにじむ。

 3千億円とも言われる巨費を投じて辺野古沖に飛行場を造ってしまえば、沖縄への「固定化」は避けられない。貴重なサンゴの海も永久に失われる。引き返すなら着工前の今しかない。

 それだけに、既成事実を積み重ねて「後戻りできない状況」を狙う政府のやり方は納得できない。取り返しがつかない工事だからこそ、県民の理解と承認は不可欠だ。

 知事選後まで、辺野古移設に向けた一切の作業を中止すべきだ。強行するなら、安全保障を大義名分にした日米両政府による沖縄への基地の「押しつけ」という過ちを、また繰り返すだけになる。

[京都新聞 2014年08月16日掲載]


信濃毎日新聞 社説 
辺野古移設 有無を言わせぬ強引さ
08月16日(土)

 あまりにも強引ではないか。沖縄県の米軍普天間飛行場(宜野湾市)の移設に向け、名護市辺野古沖にブイが設置されている。反対意見を顧みない進め方は、日米両政府への反発を広げるだけだ。

 沖縄防衛局は、埋め立て工事に先立つ海底ボーリング調査に着手しようとしている。ブイを設置したのは、米軍や工事用の船以外の航行を禁じた臨時制限区域を明示するためだ。反対派住民らの海上での抗議活動を阻止したいのは間違いない。

 沖にこぎ出した反対派のカヌーを海上保安庁のボートがたちまち取り囲む。現場では、そんなせめぎ合いが続いている。抗議活動を封じ込めながらの作業だ。近くの港にカヌーをえい航するなど強制排除も行われた。有無を言わせない姿勢が鮮明になった。

 稲嶺進名護市長は即座にコメントを発表した。「民意を無視し続け、強硬に進めてきた。政府の暴挙に抗議する」としている。1月の市長選で移設反対を掲げて再選された。憤るのも無理はない。

 11月の県知事選は普天間問題が最大の争点になる。辺野古移設に反対する那覇市長が立候補の意向を示している。県外移設を公約しながら容認に転じた現職は、苦戦が予想される。政府としては知事選前に工事を進め、後戻りできないようにしたいのだろう。

 政府は2004年にもボーリング調査に着手したものの、抗議活動で中止に追い込まれた。当時は制限区域を設けていなかった。今回は違う。区域内に立ち入った場合、日米地位協定に伴う刑事特別法の処罰対象になる。政府は立件も辞さない構えだ。

 こうまでしないと進められない事業は、無理があると言わざるを得ない。小野寺五典防衛相はきのうの記者会見で「沖縄県民の理解を得る努力を継続したい」と述べた。そう言いながら、反対派を力ずくで抑える。現にしているのは全く逆のことではないか。

 政府の不誠実な対応も次々と明らかになっている。辺野古の内陸部に多くの軍関連施設を建てる未公表の計画図案があった。これらの施設について、米軍が環境影響評価(アセスメント)の実施を求めていたことも判明した。県民の不信は募る一方だろう。

 反対の声に耳を傾けない政府の姿勢は、普天間に限らない。特定秘密保護法、集団的自衛権、原発再稼働…いずれも同じだ。沖縄だけの問題ではない。共に厳しい視線を向けていきたい。






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