2015年5月15日金曜日

安保をただす 法案閣議決定 戦争に道を開く転換点 (信濃毎日 社説)

信濃毎日 社説
安保をただす 法案閣議決定 戦争に道を開く転換点
05月15日(金)

新たな安全保障法制の整備に向け、政府が関連法案を閣議決定した。きょう国会に提出し、下旬の審議入りを予定している。

憲法9条の縛りを次々に外し、自衛隊の活動を一気に拡大しようという法案だ。他国と同じように海外で武力行使できる国へと踏み出すことになる。

戦後70年、平和国家として歩んできた日本の重大な転換点だ。改憲に等しい法案を容認することはできない。

<地球規模で対米協力>

閣議決定したのは、他国軍支援を随時可能にする新法の「国際平和支援法案」と、武力攻撃事態法や周辺事態法など10本の法律の改正案を一つにまとめた「平和安全法制整備法案」だ。

自国の防衛だけでなく、国際社会の平和と安全を含めた「切れ目のない体制」の整備を目指している。集団的自衛権の行使、国際紛争に対処する米軍や他国軍への支援拡大、紛争後の治安維持活動への参加など、内容は幅広い。

主眼は「日米同盟」の強化にある。日米防衛協力指針(ガイドライン)の改定で地球規模の協力を打ち出した。法案は、その裏付けになる。成立すれば、自衛隊は日米安保条約の枠を超えて世界中で米軍とともに活動できる。

政府は、法案全体を「平和安全法制」と称している。平和の名の下、自衛隊を海外で武力行使できる部隊に変質させる。

きのうの記者会見で安倍晋三首相は、集団的自衛権の行使は「極めて限定的」だと強調した。しかし、行使の基準は曖昧だ。政府の判断次第で歯止めはなくなる。

<「戦死」の現実味>

首相の言葉とは裏腹に、自衛隊の活動は自国の守りに徹する「専守防衛」から、いよいよ懸け離れる。「戦争法案」といった批判が野党から出るのも分かる。

自衛隊の海外での活動は徐々に広がってきた。それでも、これまで銃弾を1発も放たず、殺すことも殺されることもなかった。「非戦闘地域」に活動を限るなど、曲がりなりにも憲法と折り合いを付けてきた結果だ。

新たな法制は、事情を一変させる。より危険度の高い任務に当たることになる。

イラク戦争後、2004年から人道復興支援で自衛隊が派遣された際、武器使用は正当防衛などに限定されていた。治安維持は担わず、オランダ軍や英軍に守られながらの活動だった。両国軍には死者が出ている。

活動を「非戦闘地域」に限ったが、それでも当時の防衛庁は隊員の死を想定して対応を練った。武器使用を前提に治安維持を担うことになれば、戦闘で隊員が命を落とす事態は現実味を増す。

アフガニスタンで北大西洋条約機構(NATO)が主導した国際治安支援部隊(ISAF)のような例に加わる可能性もある。タリバン政権崩壊後の01年に派遣され14年に戦闘任務を終えた。駐留外国兵士の死者は戦闘以外を含め約3500人に上ったとされる。

治安維持活動一つ取っても重大な問題をはらむ。にもかかわらず政府は、集団的自衛権の行使や米軍支援の拡大などとともに一括で審議しようとしている。一つ一つ採決していては時間がかかるからだ。あまりに荒っぽい。

首相は、今国会での成立に意欲を示してきた。先月、米議会での演説で「この夏までに必ず実現する」と確約している。

6月24日までの国会会期を1カ月ほど延長し、6月中に衆院を通過、7月末までに成立―との日程が取りざたされる。

国民にとって安保政策はただでさえ、なじみが薄い。まして今度の法案はたやすく理解できるものではない。世論調査では今国会での成立に反対意見が多い。数の力で押し切ることは許されない。

<外交と両輪でこそ>

首相は会見で、日本を取り巻く安保環境の厳しさを強調し、新たな法制の必要性を訴えた。北朝鮮の核・ミサイル開発、中国の海洋進出や軍事費増大など見過ごせない問題があるのは確かだ。

とはいえ、力で対抗することが妥当なのか。安全保障は、防衛と外交の両輪がバランスよく回ってこそ成り立つ。防衛が突出すれば対話の妨げになりかねない。

近隣国と信頼関係を築けないまま、政府が抑止力とする「日米同盟」強化を進めれば、かえって地域の緊張を高める。

国際貢献についても同様だ。紛争解決に力を尽くすことに異論はない。しかし、軍事への傾斜は日本にふさわしくない。武力行使とは一線を画し、貧困対策など人道支援で独自性を発揮する―。そんな選択肢はある。

アジアの安定、国際社会の平和と安全のために日本は世界でどんな役割を果たしていくべきか。国会は条文をめぐる議論に終始することなく、広く国民が納得できる針路を定めなくてはならない。

0 件のコメント: