2014年10月20日月曜日

ナオミ・クライン『ショック・ドクトリン』を読む(107) 「第15章 コーポラティズム国家 - 一体化する官と民 -」(その3) : 「ベーカー(*イラク債務問題担当特使)は、チェイニーと同様、在任中の人脈を利用して財を成した。」

北の丸公園 2014-10-20
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長老たちの再登場
ブッシュ政権の際立った特徴:
外部の顧問・特使(政府の重要ポストの経験者)に重要な任務を任せてきた
「ブッシュ政権のきわだった特徴のひとつに、外部の顧問や特使に重要な任務を任せてきたことがある。ジェームズ・ベーカーポール・プレマーヘンリー・キッシンジャージョージ・シュルツリチャード・パール、そして国防政策委員会やイラク解放委員会のメンバーなどが挙げられるが、これはほんの一部にすぎない。

重大な決定がいくつも下されたこの数年間に、議会は形式的な承認機関と化し、最高裁の判決も単なる勧告程度にしかみなされなくなる一方で、これら外部の顧問(人部分は無償)が強大な影響力を及ぼすようになった。」

「全員、公職から離れて久しく、その年月の間に惨事便乗型資本主義複合体でキャリアを築き、高給を食んできた。

もはや政府職員ではなく外部契約者という立場であるため、そのほとんどは選挙や任命によって政治家になった人たちのように公私の利益に関する規則に縛られることはない。

その結果、政府と産業界の間には「回転ドア」の代わりに「アーチのかかった門」(災害管理の専門家アーウィン・レドレナーが私に語った言葉)が設けられることになる。こうして惨事関連企業は元大物政治家の威光を隠れ蓑にして、政府内で堂々と商売を始めることが可能になったのである。」

ジェームズ・ベーカーの場合
「二〇〇六年三月、イラク政策についての提言を行なう諮問機関、イラク研究会の共同議長にジェームズ・ベーカー〔レーガン政権で財務長官、ブッシュ(父)政権で国務長官を歴任〕が任命されると、与野党の間に安堵の空気が広がった。今より安定した時代に国政の舵取りをした、伝統的なタイプの”大人”の政治家だというのがその理由だった。・・・
ベーカーはその後何をしていたのか?」

ベーカーは、チェイニーと同様、在任中の人脈を利用して財を成した。とりわけ利益をもたらしたのが、湾岸戦争の際に友好関係を築いたサウジアラビアとクウェートのクライアントだった。彼の経営する弁護士事務所ベーカー・ポッツ(本社テキサス州ヒューストン)は、サウジアラビアの王族、ハリバートン、ロシアの石油最大手ガスプロムなどを顧客に持つ、世界でも有数の石油・ガス関連企業の弁護士事務所である。ベーカーはまたカーライル・グループの共同出資者として、秘密主義に徹したこの会社から推定で一億八〇〇〇万ドルの利益を得ている。」

「カーライル・グループはイラク戦争から莫大な利益を得てきた。ロボット工学システムと防衛通信システムを売り込み、イラク人警察官訓練の大型契約を、同社が保有するUSインベスティゲーション・サービスが取りつけた結果だ。運用総額五六〇億ドルのカーライル・グループには国防事業に特化した投資部門があり、軍事関連企業の株式公開を行なっているが、このビジネスは近年高収益を上げている。同社の最高投資責任者ビル・コンウェイは、イラク戦争開始からの一年半を、「わが社にとっては最高の一八カ月だった。大きな収益を短期間で上げることができた」とふり返る。イラク戦争はすでに泥沼化していたにもかかわらず、同社の一部投資家には六六億ドルという記録的な配当が支払われた。」

「プッシュ(息子)大統領がベーカーをイラク債務問題担当特使として公務に呼び戻した際、彼はカーライル・グループやベーカー・ポッツが戦争の利権と直接的な関わりを持つにもかかわらず、その株を手放すよう迫られることはなかった。当初、何人かのコメンテーターがこのことを問題視し、『ニューヨーク・タイムズ』紙は、彼が特使として誠実な立場を保つためには両社から身を引くべきだとする論説を掲載した。」

「だがベーカーはブッシュ政権トップの前例に倣い、こうした提言をきっぱり拒否した。ブッシュは彼の決断を擁護し、イラクの対外債務を帳消しにするよう各国政府を説得する役を彼に託した。」

ある秘密文書
「ベーカーの特使就任から一年も経たない頃、私はある極秘文書のコピーを入手したが、そこにはベーカーの公私の利害衝突が、それまで考えられていたよりはるかに大きく直接的なものであることが暴露されていた。六五ページに及ぶその書類はカーライルを含む企業連合が作成し、イラクの主要債権者であるクウェート政府宛てに提出された事業計画で、イラクのクウェート侵攻によって生じた未払い債務二七〇億ドルを、ハイレベルの政府的なコネを利用してイラクから回収することを提案するものだった。つまり、特使としてのベーカーの任務 - フセイン時代の債務を帳消しにするよう各国政府を説得すること - とまさに正反対のことを提案していたのだ。」

「「イラクに対する債権請求の実現と保護に関するクウェート政府支援提案書」と題されたその文書は、ベーカーの特使任命からほぼ二ヵ月後にクウェート側に提出されたものだった。文書中、ベーカーの名前は二回も言及されており、イラクの債務帳消しに携わる人物が関係する民間企業と手を組むことはクウェートにとって有利だと言わんばかりである。ただしそれには相応の代価が必要だ。書類は便宜を図る交換条件として、カーライル・グループに対して一〇億ドルの投資をすることをクウェート政府に求めているが、これはまさに斡旋収賄にあたる。ベーカーの力を借りたいのなら、その会社に金を払えというのだ。政府の倫理規制問題の専門家であるワシントン大学法学部教授キャスリーン・クラークにこの書類を見せたところ、これは「典型的な利益の衝突」のケースだと言う。「ベーカーはこの取引の両サイドに属している。彼はアメリカ合衆国の国益を代表する立場であると同時にカーライルの主席弁護士でもあり、同社はクウェートが対イラク債権を回収する手助けをする代わりに、その見返りを求めているわけですから」。そして書類を精査したクラークは、「カーライルをはじめとする企業はベーカーの現在の立場を利用して、アメリカ政府の利益に反するような取引をクウェートとの間で行なおうとしている」と結論した。」

「この極秘文書に関する私のスクープ記事が『ネーション』誌に掲載された翌日、カーライルは一〇億ドル獲得の夢を捨てて企業連合から脱退し、数カ月後、ベーカーはカーライル・グループの株を処分して同社の上級顧問の職も辞した。だがその時点では、すでに実害が生じていた。特使としてのベーカーの任務は無残な失敗に終わり、ブッシュが請け合い、イラクが必要としていた債務免除を取りつけることはできなかったのだ。二〇〇五年から翌年にかけて、イラクはフセインの起こした戦争の賠償金として二五億九〇〇〇万ドルを支払ったが(そのほとんどは対クウェート)、それだけの金があれば、復興と人道危機への対処のためにイラクが是が非でも必要としていた資金にあてることができたはずだ。アメリカ企業が復興資金を無駄遣いしたあげく、任務半ばで去ってしまったことを考えればなおさらである。当初、対外債務の九〇~九五%免除が目指されたものの、けっきょくは支払いの期限が先送りされただけで、現在もイラクはGDPの九九%に相当する債務を抱えている。」
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