2012年12月25日火曜日

基地の問題が県外の政党やマスコミや有権者の意識から消えてしまう国政選挙とはいったい何なのだろう(竹田圭吾)

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特別寄稿・竹田圭吾  選挙が黙って通り過ぎた島 なんくるな…くないさー <衆院選・特別コラム>
2012年12月25日(火)08:00

 選挙という祭りが終わった。さまざまなドラマがあった。時系列に簡単に振り返ってみよう。

(略)

 つまり、東京や大阪で「近いうち」だ「第三極」だ「脱原発」だと盛り上がっている間に、沖縄では酔っ払ったアメリカ兵が2人がかりで女性を襲い、別のアメリカ兵がアパートに侵入して中学生をぶん殴り、別のアメリカ兵が他人の家に勝手に上がり込んで寝てしまい、別のアメリカ兵が脱走して行方不明になり、別のアメリカ兵が酒気帯び運転で捕まりながら飲んでないと言い張り、別のアメリカ兵が飲酒運転で追突事故を起こしていた。

 いまこの原稿を名護市の辺野古の海岸で書いている。エメラルド色の海を眺めながらつい考える。今回の選挙は沖縄にとってどんな意味をもったのだろう。沖縄にとってどんな意味をもったことが沖縄以外の日本人にはどんな意味をもつのだろう。

 選挙前も選挙後も沖縄の様子に変わりはない。普天間の小学校の空にはヘリのプロペラ音が響き、迷彩色の米軍車両がコンボイを組んで高速道を走り、辺野古の基地移設反対運動のテントではおじいの弁当を犬がハアハア言いながら見つめていた。

 いや、ここ数カ月の変化が一つある。飛行機とヘリコプターが合体したような物体が沖縄中の空を飛び回るようになったことだ。最近はもう空を見上げなくても何が飛んでいるかわかるようになったと、那覇の人たちは言う。パタパタパタという今までのヘリの音と違って、お腹にズインズインと響くような重い音がするから。

 ズインズインをお腹で感じながら、沖縄の人々は衆院選の結果を報じるニュースを複雑な思いで眺めていた。選挙2日後の琉球新報には恒例の、沖縄の小選挙区と比例選出の当選議員が一同に会しての座談会が載っていた。見出しには「県内移設拒否で一致」とある。今回の当選者7人のうち4人が自民党所属だが、自民党の公約には「県外移設」とは一言も書いていない

 国民のみなさん国民のみなさんと政党の指導者たちは選挙の期間中に連呼した。その姿は沖縄の人々にどう映り、その主張はどう聞こえただろうか。この3年間に政府と沖縄の間で起きたことを振り返れば、「国民の生活が第一」だったとは言いがたい。「卒原発」や「国土強靭化」は結構だが、その前にまずやることがあるのでは…。普天間問題を炎上させた政権与党のスローガンが「今と未来に誠実でありたい」とか、悪い冗談にしか聞こえないさー。

 実際、公約でも討論でも共産党と社民党を除く政党は基地問題に深入りしなかった。鳩山元総理の「最低でも県外」発言がもたらした災禍を思えば無理もないが、マスコミも突っ込まない。触れようとさえあまりしない。公示後に札幌、名古屋、福岡、大阪を訪れる機会があったが、東京と同様に、いろいろな人と話していても選挙の話題に基地や沖縄のことが出てくることはなかった。

 厳密に言えば、沖縄が選挙中まったくマスコミで話題にならなかったわけではない。事実上の全体主義国家が事実上の弾道ミサイルを日米韓が気づかないうちに事実上打ち上げたおかげで、沖縄は事実上何度もニュースに登場した。

 頻度が増えたのは、新聞やテレビが尖閣諸島を表記する際に必ず「沖縄県の」とつけるようになったためでもある。誰も住んでいない島の帰属にはそれだけ気を配るのに、138万人が日々暮らす本島で起きていることをろくに気にかける様子がないのはどうなのか、などと疑問を抱くのは今の世の中の空気的にはたぶんポリティカリー・コレクトでない。

 衆議院解散の2日後、テレビ番組で橋下徹・大阪市長と一緒になった。橋下さんが石原慎太郎氏との「野合」批判や消費税、TPP、原発についてひとしきり語ったあと、司会者から「竹田さんも何かあります?」と振られたので、沖縄の人が普天間の問題や地位協定を橋下さんはどうしますかと聞いたら何と答えますか、と質問した。

「普天間は今は辺野古しかないと思っています。代替案がないのに無責任なことは言えない」「(地位協定は)アメリカと交渉しないといけないと思っています。ただ、アメリカの軍事力に乗っかっているという現実もある」が、その時の橋下さんの答えだった。地方分権を掲げる日本維新の会の「維新八策」には「日本全体で沖縄負担の軽減を図るさらなるロードマップの作成」とだけ書いてある

 普天間基地と辺野古案の問題がこれだけ紆余曲折した状況では、軽々しく移設を口にしないほうが政党としてむしろ責任ある態度なのは言うまでもない。ただ、だからと言って基地問題そのものが選挙からまったく姿を消してしまうのはあまりにも飛躍が過ぎる。

 公示日に福島県飯館村を訪れた日本未来の党の嘉田由紀子代表は、第一声の演説で「3・11以降で初めての国政選挙なんです」と、今回の選挙がもつ意味の重さを強調した。それが立地自治体の負担と都市住民の受益を問うべきという意味だとすれば、まさに沖縄以外も含めた在日米軍基地問題も問われなければいけない選挙であったとも言える。

 現職閣僚も含めた沖縄選挙区における連立与党惨敗の責任は、かなりの部分まで鳩山元総理の無責任な行動に帰するだろう。基地問題=沖縄問題=普天間問題=日米同盟の問題という錯覚を日本中に植えつけ、地位協定の問題を思考停止の中に埋没させた責任もある。それでも「鳩山さんには、ありがとうという気持ちが今でもちょっとある」と語る人たちが沖縄にはいた

 すべての県民の堪忍袋の緒を切らせ、これまで保守と革新、基地の条件付き受け入れと無条件拒絶で分断されていた沖縄を「県外移設」で団結させたことへの感謝、という皮肉ではない。鳩山さんのおかげで日本中が今までにないくらい沖縄の問題に注目してくれたから、というのだ。

 そこまで言わせるウチナーとヤマトの距離とは何なのか。2008年に米兵による女子中学生暴行事件が起きた時、私が出演していた番組でアナウンサーがそのニュースを「沖縄は怒っています」という言葉で説明しはじめたので、コメントする時に思わず突っ込んだことがある。沖縄じゃなくて日本が怒っていますじゃないとおかしいでしょう、と。厚木で同じ事件が起きたら「神奈川は怒っています」と言うのかと。

 自分の偽善を他人の偽善でごまかすつもりはない。ただ、選挙の直前にこれだけ次から次へと米兵がしでかした状況でさえ、基地の問題が県外の政党やマスコミや有権者の意識から消えてしまう国政選挙とはいったい何なのだろう、と思うだけだ。

 正直言って、政党の乱立や野合がどうとか、小選挙区制の弊害やネット選挙解禁がどうとか、そんなことはとりあえずどうでもいい。鍵をしめ忘れていると酔っ払った米兵が勝手に家に入ってくる。そんなことが起きている地域をどうするかが、なぜ争点のごく一部にすらならなかったのか。そこに答えをもたないかぎり、福島と東北の復興もおそらくない
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<筆者紹介> 竹田圭吾(たけだ・けいご)。1964年生まれ。東京都中央区出身。ジャーナリスト。元『ニューズウィーク日本版』編集長。多数の情報テレビ番組に出演。
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まさか自分が下(↓)のような引用をするとは想像だにしなかったが、
いま、この言葉がすごく新鮮で素直に聞こえる。
やはり、おかしいのだ。

沖縄は,いろいろな問題で苦労が多いことと察しています。その苦労があるだけに日本全体の人が,皆で沖縄の人々の苦労をしている面を考えていくということが大事ではないかと思っています。地上戦であれだけ大勢の人々が亡くなったことはほかの地域ではないわけです。そのことなども,段々時がたつと忘れられていくということが心配されます。やはり,これまでの戦争で沖縄の人々の被った災難というものは,日本人全体で分かち合うということが大切ではないかと思っています。
(宮内庁HP)

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