2022年1月25日火曜日

焦燥  (茨木のり子) 「稚(ワカ)い母よ ともに走らう 虚像をにくみ はげしく憎み 母系時代のどんらんさで まことの美果を もぎに行かう」(「詩学」1951年8月 詩人25歳)        

 


焦燥     茨木のり子


けざやかな分裂を 支へ

わたしは

燭台のようにたっている


腰をひねり

いくたの蝋燭を捧げて


疑惑のまなこは

焦点を結ばず


君も例外ではないようだ

民族よ

乳房のあたりは凍っている、

幾時代かの不感症に馴らされて


稚(ワカ)い母よ

ともに走らう

虚像をにくみ

はげしく憎み


母系時代のどんらんさで

まことの美果を もぎに行かう


獣のみもつ純潔を

違い日すでに 失ったことを

心に深くかなしみながら


代るあたらしいもののないことを

心に深く憂ひながら。


(「詩学」1951年8月 詩人25歳)



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