焦燥 茨木のり子
けざやかな分裂を 支へ
わたしは
燭台のようにたっている
腰をひねり
いくたの蝋燭を捧げて
疑惑のまなこは
焦点を結ばず
君も例外ではないようだ
民族よ
乳房のあたりは凍っている、
幾時代かの不感症に馴らされて
稚(ワカ)い母よ
ともに走らう
虚像をにくみ
はげしく憎み
母系時代のどんらんさで
まことの美果を もぎに行かう
獣のみもつ純潔を
違い日すでに 失ったことを
心に深くかなしみながら
代るあたらしいもののないことを
心に深く憂ひながら。
(「詩学」1951年8月 詩人25歳)
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