2022年1月29日土曜日

民衆   (茨木のり子) 「ああ こののびやかな四肢に、 似合はぬ ふてた姿勢をすてて ひまはりのように立つ日は 何時だらう!……」(「詩学」1952年7月 詩人26歳)    

 


民衆     茨木のり子


テープが投げられる

いろとりどりの惑乱のテープ


その華やかな捕縛のなかで

あたしは何の花のように

匂へばいいのだらう……


ふみあらされた娼婦のように

あたしたちの花園は

もう一種だけの匂ひを放ちはしない


シグナルのように転換の烈しい

「価値」の明滅のおもしろさに


奇妙な顔面神経がゆったり波うつ

今日も股には水色の疲労


ああ

こののびやかな四肢に、

似合はぬ ふてた姿勢をすてて

ひまはりのように立つ日は

何時だらう!……


どこかにそんな核がひそんでいさうで

のろのろと、


今日もポケット中を探してみるのだが……


(「詩学」1952年7月 詩人26歳)




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