2015年6月19日金曜日

自民党の基盤 衰弱が生んだ政権独走 (小熊英二 『朝日新聞』) : 戦後の自民党を支えたのは、有権者の「暗黙の信頼」だった。それを「白紙委任」と誤認すれば、「王様は裸」であることが、誰の目にも明らかになる日が来る。

自民党の基盤
衰弱が生んだ政権独走
小熊英二(『朝日新聞』2015-06-09)

 安保法制や原発重視など、現政権の政策には世論の支持がないものが目立つ。政権の未来はどうなるだろうか。

 昨年8月の本欄にも書いたが、自民党は衰弱している。党員数は24年前の8割減で、衆院選得票数も大敗した2009年の数を回復していない。旧来の基盤だった町内会や商店会、各種業界団体の衰退を考えれば当然だ。

 それでも選挙に勝てるのは、野党の分裂と公明党の協力に加え、投票率が低いためだ。自公が約3割の固定票を組織し、投票率が5割台なら、確実に自公候補が勝つ。09年衆院選のように、投票率が約7割に達し、野党が協力しない限り、自公には勝てない。

 自民党の固定票は、政策ではなく、地縁や血縁などで集められている。05年に自民党新人候補の「山内さん」の選挙を撮影した想田和弘は、以下の逸話を挙げている。「山内さん」は先輩の自民党議員の紹介で、町内会を訪問した。町内会のリーダーは支持を確約したあと、「ところで山内さんの公約って何ですか?」と尋ねたという(想田「ニッポンの選挙には『議論』が不在」Journalism4月号)。

 しかし反面、こうした自民党の基盤が強固だった時代は、世論と乖離した政策は強行できなかった。上記のような支持は、「勝手な独走はしないだろう」という暗黙の信頼を前提にしている。自民党議員も、地元民のそうした意向を知っていた。それゆえ、政権が世論と乖離した行動をすると、党内抗争という形でチェック機能が働いた。

 ところが現在は、それが機能していない。自民党が衰弱したからだ。

 12年衆院選で安倍政権ができたとき、自民党衆院議員の過半数は当選2回以下、3分の2は4回以下だった。自民党の基盤が衰弱し、連続当選が難しくなったためだ。彼らは基盤が不安定なため、党の公認を取り消されることを恐れ、官邸の意向に逆らえない。同じく基盤が衰弱したため、派閥を作る力がある議員もおらず、派閥抗争もおきない。官邸に異を唱えるのは、地盤が強固な一部議員のみである。

 つまり党が弱体化するほど、官邸の力が表面的には強くなる。地方からの陳情も、自民党本部より官邸に集まっている。御厨貴「安倍政権の課題と展望」(潮6月号)は、有力なライバルも後継者もいない安倍政権は「向かうところ敵なし」だと述べている。

 こうして政権は、民意と乖離した政策を強行できる。しかしこれは、いわば「裸の王様」状態である。表面的には強いが、その強さが、実は弱体化のために起きているからだ。

 そして自民党にとって、危険な兆候も起こっている。県知事選の連敗である。その背景にあるのは、政権の独走に対する地方組織の離反だ。

 自民党沖縄県連元幹事長だった仲里利信は、米軍基地の辺野古移設に反対し、「私たちこそ自民党である」と述べている。自民党とは、地域の民意を尊重し、「郷土」を大切にする政治家の集まりだった。自分が辺野古移設に反対するのは、自民党の本来のあり方に忠実であるからだ。それなのに、民意と乖離して独走する最近の「自民党は変わりました」というのである(仲里「『オール沖縄』は戦争につながる一切を拒む」世界4月臨時増刊)。

 こうした傾向を、沖縄の特殊事情と考えるべきではない。佐賀県知事選や大阪市住民投票でも、自民党の地方組織が離反して政権側が「敗北」した。自民党の中でも有力な地方組織ほど、地元民の意向をよく知っている。ゆえに有力な地方ほど、政権の独走に離反しやすい。それを政権が統制すれば、ますます自民党の基盤は衰退する。

 戦後の自民党を支えたのは、有権者の「暗黙の信頼」だった。それを「白紙委任」と誤認すれば、「王様は裸」であることが、誰の目にも明らかになる日が来る。   (歴史社会学者)
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