鎌倉 長谷寺 2016-06-01
*あるとしの六月に 茨木のり子
ひとびとも育つ
アカシヤや泰山木のように
あるとき 急速に
一九六〇年の雨期
朝の食卓で 巷で 工場で 酒場の隅で
やりとりされた言葉たちの
なんと 跳ねて 躍ったことか
魚籠より溢れた声たちは
町々を埋めていった
おしあい へしあい
産卵期の鮭のように
海に眠る者からの使いのように
グァム島から二人の兵士が帰ってきた
すばらしい批評を真珠のように吐きちらし
ひとびともたしかに育つ
ひそやかで隠微なひとつの方則
それを見た あるとしの六月に
(第三)詩集『鎮魂歌』(1965年1月 思潮社刊)
詩人39歳
(初出;『朝日新聞』1960年7月4日)
詩人茨木のり子の年譜(5) 1960(昭和35)34歳 「あるとしの六月に」(『朝日新聞』) 「惰るべき六月」 翌年 「時代に対する詩人の態度」 ~ 1963(昭和38)37歳
「ひとびとも育つ」で始まり、
「ひとびともたしかに育つ
ひそやかで隠微なひとつの方則
それを見た あるとしの六月に」で終わるこの詩の、
「ひとつの方則」って何だろうか?
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