鎌倉 明月院 2016-06-14
*道づれ 茨木のり子
あなたが逝った五月
一月あとの六月に
金子光晴さんが逝きました
健脚の金子さんはきっと追いついたでしょう
「やァ 先生!」
ボンとあなたの肩をたたき
「あ、金子さん!」
とあなたは先生もつけないで へどもど
落語にくわしい金子さんは
地獄八景亡者戯をひとくさり
「空々寂々 まさにあれとおんなじ風景」
なんて喜んで
あなたもようやく米朝独演会できいた
シュールな話を思い出す
二人とも共に残してきた女房のことには
一切ふれず
いつのまにか金子さんは
共に行くひとびとの主役になっていて
はつらつ無類
「へええ 六道の辻ってこんななの?
だったらもっと書きようもあったってぇもンだ」
未完の詩集『六道』のこととは
誰一人気づかない
詩はたぶらかしの最たるもの
地獄落ちは決まったようなものだが
首謀者 金子光晴はさまざま画策
生前の彼のボキャブラリイを借りるなら
それこそ
「地獄を茶にして」
さんざからかい
するりするり
一九七五年の初夏(はつなつ)の境 道づれになった誰彼を
みさかいもなく引きつれて
カラッとした世界へ出ていったようだ
とてつもなく蒼いイノセントの世界へ
『歳月』2007年2月 花神社刊(没後の刊行)
*金子光晴命日は6月30日
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詩人茨木のり子の年譜(7) 1971(昭和46)45歳 第四詩集『人名詩集』 1972年 「金子光晴 - その言葉たち」 ~ 1975(昭50)49歳 「木の実」 夫の他界 金子光晴没 「四海波静」
道づれの原稿
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