負債の証券化について 四元康祐
(日本経済新聞連載「経済教室」より⑧)
80年代に入って急速に普及した負債の証券化
所謂「セキュリタイゼイション」は
それまで閉ざされていた債権者⇔債務者の関係を
本来の負債とは無縁の投資家へと解放することにより
全く新しい巨大金融市場を創出した
斯くしてアルゼンチンの首都に群がる失業者たちの未来は
先進諸国の銀行団(syndicate)の手を離れ
シアトル郊外で美しい朝露を光らせる芝生の行方は
日本の個人投資家たちの見定めるところとなった
だが如何に幅広く分散しようと
本来の負債に内在するリスクが消失する訳ではない
国家財政に巨額の損失を与えたS&L危機の問題を持ち出すまでもなく
投資に際してはこの点に充分留意する必要があろう
たとえば路上にたたずむ娼婦の胸に故知らず湧き上がる厭な予感
その感覚は証券化により流通可能に標準化され
全世界の都市から農村へと忽ちにして伝播される
その波から逃れることは水牛の背に止まる小鳥にも不可能なので
オプションあるいはスワップ等のヘッジング取引を介して
速やかに青空へ飛び去ることが望ましい
詩集『笑うバグ』(現代詩文庫179 四元康祐詩集)
0 件のコメント:
コメントを投稿