永井荷風「断腸亭日乗」昭和11年9月12日条に、
「九月十二日。晴。朝の中より華氏八十八九度のあつさなり。」
というくだりがある。
「華氏八十八九度」?・・・
調べてみたら、華氏88度が31.1℃、華氏89度で31.7℃ということらしい。
9月12日で朝から31℃越えというんだけど、今年の日本はどうなることやら。
ついでに、「断腸亭日乗」のこの年7月からの天候、気温の記述はどうなっているのか見てみた。
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「七月初(旧五月十三日)。陰。夜・・・。雨に逢ふ。」
「七月初二。雨ふりてはまた歇(ヤ)む。・・・。」
「七月三日。空は朝よりくもりしまゝなれと、今日はどうやら雨は降るまじきやうに思はれたれば、・・・。夕刊新聞に相澤中佐死刑の記事あり。」
「七月四日。陰。・・・」
「七月五日。陰。・・・」
「七月六日。雨霏々。・・・。雨深更に至るも歇まず。」
「七月七日。くもりて雨無し。忽然新蝉の聲を聞く。・・・。
〔欄外朱筆〕二月二十六日叛乱軍将卒判決の報出ヅ」
「七月八日。陰。・・・。深更雲散じて月あり。」
「七月九日。陰。森先生忌辰。午後より豪雨沛然。夕方小降りになりしが初夜過ぎてより大雨とな
る。」
「七月十日。陰。俄に暑し。」
「七月十一日。晴後に陰。・・・。夜・・・。雨降出したれば高橋邦氏と車を共にしてかへる。
流行唄忘れちやいやよと題するもの蓄音機圓板販売禁止。また右の唄うたふ時は巡査注意する由。・・・。」
「七月十二日。陰。・・・。寝に就かんとする時俄に雨聲をきく。
〔欄外朱筆〕叛軍士官代代木原ニテ死刑執行ノ報出ヅ」
「七月十三日。終日大雨。夜に至って霽(ハレ)る。」
「七月十四日。晴れて俄にあつし。・・・」
「七月十五日。晴れて晝の中は南風吹きしきりでさほどに暑くもなかりしが、夜に入り風やみ溽暑堪えがたくなりぬ。・・・。」
「七月十六日。晴。晝中華氏九十度(32.2℃)の暑なり。・・・。」
「七月十七日。昨日にまさる暑たり。・・・。」
「七月十八日。快晴。炎暑ますます甚し。・・・。」
「七月十九日。・・・。」
「七月十九日 補。夕刻・・・。八時頃驟雨雷鳴甚し。・・・。」
「七月二十日。陰。暑気やゝ忍びやすくなれり。今日より二十四日まで毎夜鮎燈を禁ぜらる。・・・。〔以下一行抹消〕朝鮮人暗夜に乗じ暴動を起すやの流言頻なり」
「七月廿一日。天気快晴。風ありてすゞし。・・・。」
「七月廿二日。朝晴。晝頃くもる。風さはやかなれば・・・。点燈禁止の第三夜なり。・・・。」
「七月廿三日。・・・。点燈禁止の第四夜なり。・・・。」
「七月廿四日。早朝大に雨ふる。・・・。」
「七月廿五日。暑甚し。・・・。」
「七月廿六日。炎暑甚し。」
「七月廿七日。炎暑咋の如し。・・・。」
「七月廿八日。風ありて稍(ヤヤ)涼し。・・・。」
「七月廿九日。土用に入りても蝉の聲少し。」
「七月三十日。・・・。」
「七月升一日。晴。夾竹桃秋海棠花さく。」
「八月初一。空くもりて風俄に涼し。夜驟雨あり。」
「八月初二。曇りて涼しきこと昨日の如し。」
「八月三日。小雨。涼味秋の如し。・・・。」
「八月四日。晴。涼風颯々たり。蟬聲稍多くなりぬ。・・・。風聲既に秋のごとし。」
「八月五日。・・・。」
「八月六日。牛後より雷鳴驟雨。夜に入って霽る。」
「八月七日。薄晴。風ありて涼し。・・・。」
「八月八日。晴また陰。風涼し。・・・。夜驟雨。」
「八月九日。晴。晩來小雨。須臾にして歇む。」
「八月十日。晴また陰。・・・。」
「八月十一日。晴。・・・。」
「八月十二日。晴。暑気夜に入りで殊に甚し。」
「八月十三日。晴。・・・。」
「八月十四日。晴。・・・。」
「八月十五日。晴。秋風颯々たり。始めて法師蟬の鳴くをきく。夜墨堤を歩む。言問橋西岸に花火の催しあり。・・・。夜伯林オリンピクの放送十二時頃より十二時半に至る。銀座通のカフヱー及喫茶店これがためにいづこも客多し。」
「八月十六日。陰。終日風あり。・・・。深更大雨。」
「八月十七日。くもりて風なし。午後小雨。・・・。」
「八月十八日。晴れて涼し。・・・。夜・・・。秋風肌に沁む。」
「八月十九日。快晴。涼味九月の如し。・・・。歩みて京橋より電車に乗りてかへる。窓外の虫聲昨夜に此すれば更に多し。」
「八月二十日。快晴。晝の中より秋風肌寒きばかりなり。・・・。」
「八月廿一日。晴れて涼し。・・・。」
「八月廿二日。陰。再び暑し。・・・。」
「八月廿三日。晴。後に陰。」
「八月廿四日。晴。残暑甚し。・・・。」
「八月廿五日。晴。朝の中より日の光強く残暑酷烈なり。・・・。溽暑眠難し。」
「八月廿六日。くもりて暑し。・・・。此夜三更驟雨濺來りしが溽暑更に減ぜず、寝室蒸すが如し。」
「八月廿七日。くもりて湿気多し。・・・。」
「八月廿八日。快晴。秋暑いよいよ甚し。・・・。」
「八月廿九日。晴。・・・。夜熱甚しければ・・・。月佳し。」
「八月三十日。晴れて暑し。」
「八月卅一日。晴れて暑きこと昨日の如し。・・・。十一時過雨始めて霽る。」
「九月初一。晴。溽暑甚し。夜明月皎然。深更に至り驟雨。」
「九月初二。終日驟雨、夜に入るも霽れず。雷聲殷々たり。・・・。」
「九月初三。晴また陰。燈刻雷鳴驟雨。」
「九月初四。陰。溽暑坐ながらにして汗流るゝばかりなり。・・・。途中疾風俄に砂塵を捲き驟雨來る。・・・。日暮れて松屋閉店の時刻となるも雷雨猶歇まず。・・・。夜八時雨始めて霽る。月よし。」
「九月初五。晴。・・・。」
「九月初六。快晴。秋暑猶熾なり。・・・。」
「九月初七。晴。朝の中既に華氏九十度の暑なり。・・・。」
「九月八日。晴。残暑更に退かず。・・・。」
「九月九日。晴。今年の暑さは夜のふくるにつれてますます甚しくなるなり。今夜も亦十時頃より風絶えてむしあつく眠りがたし。唯虫の聲のみ夜毎に秋のふけ行くを知らしむ。」
「九月十日。晴。・・・。夜また玉の井視察。・・・。蒸暑眠りがたきこと昨夜のごとし。」
「九月十一日。晴。昨日に此すれば稍涼し。・・・。深更驟雨の来るを聴く。」
「九月十二日。晴。朝の中より華氏八十八九度のあつさなり。・・・。」
「九月十三日。晴れて風やゝ涼しくなりぬ。・・・。」
「九月十四日。風は颯々として響を立つれど日の光強く暑気更に退かず。今年の如き残暑は未曾て無きところなり。・・・。」
「九月十五日。・・・。夜玉の井に往く。・・・。」
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この辺りで、「暑」の字が日記から消えます。
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この年は、8月22日以降に暑さがぶり返す、所謂残暑が厳しい年であったようです。
この年58歳の荷風散人であるが、9月14日条でつくづくと、「今年の如き残暑は未曾て無きところなり。」とぼやいています。
暑さが増幅する環境、暑さをしのぐ(又は耐える)環境も異なりますので比較はできないと思いす。
でもねえ、荷風散人、
それでも玉の井通いはしっかりと・・・。
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猛暑、残暑、熱帯夜・・・、それに甲子園ときたら、
昔(?)は、電力消費節減キャンペーンがあったもんですが、
さるニュースによれば、電力消費量はリーマンショックの年の7月のレベルにはまだまだ及ばず、ということらしいです。
器具の消エネ化、電力会社に依らない発電も、少しはそれに寄与?
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