山下菊二 『あけぼの村物語』
美術館の説明
山下菊二 1919-1986
あけぼの村物語 1953昭和28年
この作品は、山梨県で実際に起きた事件が主題です。
3つの消失点に対応しつつ、場面は概ね4つに分けられます。
画面右から、銀行倒産のために自殺した老婆とその孫娘、農道建設によって自分の麦畑が潰されたことに抗議する村娘、地主への抗議及び襲撃の先導に立った人物を背負籠に入れて運ぶ男、そして画面の下辺には赤い川で溺死する事件の主導者が描かれています。
圧制に耐えかねた村民たちが地主宅を襲撃したという事件そのものは描かれていませんが、周辺事情を通じてその因果関係が浮かび上がります。
寄り目や斜視の犬によって表された人物描写は、土俗的な雰囲気を高めています。
不二草子 本日のおススメ 2013.01.28
山下菊二 『あけぼの村物語』
(略)
山下は戦中、兵隊として上官に逆らえず、結果として戦争に加担せざるを得なかったことを悔い、戦後は共産党員となって、実際に山村工作隊に所属して活動したり、絵を描いたりすることで、権力や天皇制と闘い続けました。
この「あけぼの村物語」に描かれたのは、1952年、山梨の貧村、南巨摩郡の曙村で実際に起きたある事件を題材としています。
(略)
mmpoloの日記
■[美術]山下菊二の「あけぼの村物語」
先日のNHK日曜美術館で山下菊二が取り上げられた。山下は戦後中村宏や池田龍雄らとルポルタージュ絵画運動に加わっていた。代表作は「あけぼの村物語」だ。
ちょっと気味が悪い作品だ。老婆が首を括っており、犬がその鼻水を舐めている。血色の池の中に男が倒れている。帽子をかぶったり鉢巻きをした険しい顔の犬が死んだ老婆を見ている。
「芸術新潮」1993年2月号は「特集・アンケート・戦後美術ベストテン」と題して美術評論家・学芸員など30人のアンケートを発表している。山下菊二の「あけぼの村物語」が第5位に選ばれている。さらにその10年ほど前の欧米の美術評論家を対象にした同じようなアンケート結果では、この絵が第1位の評価を受けていた。
「芸術新潮」の解説によれば、
無類の鳥好きでもあった山下菊二は、戦争や差別、社会の歪みを、時に直接的に、時に間接的に描き、告発し続けた画家だった。その代表作《あけぼの村物語》は山梨県曙村で実際に起きた事件に取材したものである。非人道的な山林地主に対して立ち上がった労働者の一人が、地主に頭を棒で殴られ、村の消防団に追われた末に川で溺死。この事件の公判中に現地を訪ねた山下は、土着的なシュールレアリスムとでも言うべき手法により、悲惨な現実をグロテスクと諧謔をあわせ持つ寓話的作品に描き出した。
テレビで解説した岡崎乾二郎によれば、この作品は事件に立ち会っている地主の視点から描かれている。つまり作品の手前に地主がいるのだ。
(略)
日曜美術館 2009年9月6日放送
闇をえぐる眼 画家 山下菊二
出演
岡崎乾二郎さん(造形作家・評論家)
山下菊二(1919~1986)は戦後の事件や差別などの社会問題を題材に、土俗的でシュールな作品を描いた戦後の日本美術を代表する画家だ。生誕90年の今年、アトリエの調査が行われ、従軍時の様子を描いた200枚以上のデッサンなど、貴重な資料が次々と発見された。
山下は、戦争に反対できぬまま上官の命令に服従し続けた「戦争従犯者」としての責任を、描くことを通して自らに問い続けた。そして1952年、山梨県でおきた地主と農民の争いを描いた代表作「あけぼの村物語」が生まれた。そこには多彩なイメージが混沌(こんとん)と響きあい、加害者や被害者などといった単純な構図を越えた重層的な世界が広がる。
生涯、山下が描き続けたのは戦争や事件そのものではなく、それを通して見えてくる日本人の姿であった。なぜ日本人は強く因習や世論にとらわれる性質なのか。なぜ世界から戦争や差別は無くならないのか。その問いが、山下の絵画のなかには渦巻いている。
生涯自問自答を繰り返しながら、人間存在を問い続けた山下菊二の世界を照射する。
(略)
1 件のコメント:
始めまして。個人的に山下菊二先生のことを調べている者です。大変興味深く記事を読ませて頂きました。
そこで、もしよろしければ質問させて頂きたく存じ上げます。欧米の評論家から一位の評価を得たと書かれておりますが、このアンケートの正式な名称、またはこの内容が掲載されていた書籍などをご存知でしたら教えて頂けないでしょうか。どうぞよろしくお願い致します。
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