『朝日新聞』2016-06-04
*背信の増税再延期(経済気象台『朝日新聞』2016-06-04)
消費増税が2019年10月まで再延期されることが決まった。
再延期はしないとの約束をほごにしたこと、社会保障・税の一体改革という政治合意をなし崩しにしたこと、アベノミクスによって景気が回復していると言いながら内需停滞を懸念していることなど、納得性、説得力を欠いている。
それ以上に問題なのは、増税再延期が重大な背信行為であるということだ。
第一に、将来世代に対する背信である。
消費増税を財源とする子育て支援など社会保障の充実策は縮小され、国債残高の削減も見送られる。
それは、社会全体で子育てを支え、将来世代の負担を減らすという、一体改革によって合意された理念の放棄である。
さらに、彼らを自分たちの責任で支えたいと考えたわれわれ世代をも裏切った。
第二に、日本経済の再生を期待してきた国民に対する背信である。
安倍晋三首相がいかに自分の業績を誇っても、経済成長率は低下し、一般家計の生活水準は停滞を続けているという事実を否定はできまい。
日銀がかつてない金融緩和策を実施しても、デフレ脱却は実現していない。
首相はそれがなぜなのかを語らず、議論のすり替えや言い訳をするだけだ。
第三に、海外のリーダーたちに対する背信である。
伊勢志摩サミットで首相は、消費増税再延期を正当化するために、世界経済の危機やリスクをことさら強調した。
各国首脳は「サミットの政治利用」という疑念を抱いたはずだ。
彼らの信頼を損なっただけでなく、信頼醸成の場としてのサミットの意義をおとしめた。
安倍首相はこれから、自らの背信行為に対する逆風を受けることになる。
(山人)
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