募る思いを託す 心の友 (高階秀爾『朝日新聞』美の季想2017-07-18)
夏の月
今年も酷暑の夏を予告するような暑い日々が続く季節となった。
昼間外に出ると、熱気が全身に襲いかかる。
夜になってようやくひと息つく。
多少なりとも気温が下がるということもあるだろうが、それ以上に、昼間の喧噪と活動を離れ、すべてが闇と静寂に包み込まれて心が落ち着くという事情が大きい。
そこにさらに、冴え冴えとした月光の冷たい輝きが加われば、夜の魅力はいっそう増すだろう。
清少納言の鋭敏な感覚はその魅力を、「夏は夜。月のころはさらなり」(『枕草子』)と、簡潔に言い切っている。
現実の活動がすべて停止しているだけに、月の光はまた、さまざまな思いをかき立てる。
その思いはほとんどつねに、今ここにないものへの悲哀、喪失感から生じて来る。
遠く離れた故郷、亡き友人との交遊、叶わぬ恋などへの思いである。
それが嵩(こう)じると詩が生まれ、歌がこぼれ出る。
(略)
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