『朝日新聞』2016-05-30
*ダサくても声あげる 腹決めた
(憲法学者・樋口陽一(81) 人生の贈りもの わたしの半生『朝日新聞』2016-05-30)
- 「立憲主義」について、あらためて教えて下さい。
私のイメージを、シンプルにお話ししましょう。民主主義を一方向に引っ張る力とします。自分が政治を任せたい候補に、有権者は投票しますが、それも行き過ぎれば、「多くの票を得たのだから何をしてもいい」と言い出す政治家が出てくる。そこに「こういう約束事、ルールがあるぞ。ちょっと待て!」とブレーキをかける。そんな反対方向の力が立憲主義なのです。
私は既に1973年に「近代立憲主義と現代国家」という本を発表していました。70年代前半、時代は国内外ともに民主主義に向かっていて、立憲主義という言葉を意識的に使う学者は少なかった。近頃は「立憲主義が軽んじられている」として、逆に注目されているけれども。
- 憲法って何でしょう。
私の亡き親友、作家の井上ひさし君の言葉を紹介しようか。仙台一高時代の同級生だったんだ。彼の座右の銘は「難しいことを易しく、易しいことを深く、深いことを面白く」。
ひさし君が2006年に「子どもにつたえる日本国憲法」という本で、こう書いています。国民が主権の憲法は、国民が国の基本的な形を作るために出した、いわば「政府への命令書」。だから国や政府の好き勝手は許されない。「憲法が、国家の暴走を食い止めている」と。
- 現在も「立憲政治を取り戻す国民運動委員会」をはじめ、市民活動も精力的ですね。
色んなタイプの学者が世の中には必要だと思うのですが、私個人は、憲法学者が国会前で、ミカン箱の上で演説するようなことは、本当は「ダサい」と思っているんです。恥ずかしいのではない。政治に直接、意見を言うより、研究を通じて、市民に行動してもらうことが、学者の仕事だと考えていますから。しかしダサいことも、やらなければならない局面が来たので、腹を決めたわけだ。
- 昨年5月3日、横浜市での憲法集会では、3万人の前でマイクを握られました。
半年ほど前に世を去った、もう一人の親友の言葉からスピーチを始めました。仙台一高の1学年先輩にあたる、俳優の菅原文太さん。僕にとっては「文ちゃん」だ。亡くなる1カ月前、彼は沖縄知事選の応援演説でこう訴えた。「政治の役割は二つあります。一つは国民を飢えさせないこと、安全な食べ物を食べさせること。もう一つは、これが最も大事です。絶対に戦争をしないこと」
- シンプルで深い言葉。
ひさし君も文ちゃんも政治や憲法を語る「自分の言葉」を持っていた。仙台一高は国語学者の大槻文彦が初代校長。後に民本主義を唱え、大正デモクラシーの中心人物となる吉野作造が学んだ学校ですからね。自由とは、個人とは何か。そんなことを、少し前まで子どもだった少年に考えさせる学舎だった。
(聞き手・寺下真理加)=全10回
2015-05-03 憲法集会(横浜みなとみらい)
近代立憲主義と現代国家
井上ひさしの 子どもにつたえる日本国憲法
9月17日 国会前 雨の中、朝から多くの人たちが抗議行動を開始 (ツイッター写真 随時追加) この雨のなか、しかもウィークデーの夜。7時前だというのに、もう2万人に / 樋口陽一さんと廣渡清吾さん 佐高信さん、落合恵子さん、内田樹さん / 俳優の石田純一さんスピーチ、どよめきが・・・。 / 3万人
書評『「憲法改正」の真実』 樋口陽一 小林節〈著〉 ; 問題はもはや護憲か改憲か、ではない。法治か専制か、の岐路に日本はある。その危機感が本書を貫く。 (『朝日新聞』)
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