2010年7月19日月曜日

明治6年(1873)3月 新次郎魚代金渋事件 朝鮮で反三越の空気強い 陸軍大輔山県有朋辞職 左院議長後藤象二郎・司法卿江藤新平・文部卿大木喬任、参議に任命 島津久光、鹿児島士族率い上京 [一葉1歳]

一葉年譜と一葉の生きた明治 明治6年(1873)3月 [一葉1歳]
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3月8日
・小田県民遭難事件。
小田県(現、岡山県の一部)浅口郡柏島村の船頭ら4名、紀州からの帰途遭難、台湾南部に漂着。先住民に船・積荷を略奪される。清朝現地当局に保護され、清国視察中の福島九成に金銭を給与され、7月20日神戸に送還される。
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3月9日
・天皇、副島大使(外務卿)一行謁見。加害先住民処置要求に止め、独走に枠をはめる。
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3月9日
・使節団、ベルギー、オランダ経てベルリンに入る。16日、宰相ビスマルクの招宴出席。
19日、大久保・木戸、召還勅令を受取る。大久保は即時帰国、木戸は巡遊継続を主張し対立。結局、大久保は即時帰国(28日)、木戸は大使一行とロシアを廻って帰国となる(ロシア訪問のあと、4月16日、デンマークのクローフで一行と別れ、ドイツ、オーストリア、イタリア、スイス、など2ヶ月にわたり官費観光旅行)。
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3月10日
・郵便料金の全国一律制度、始まる
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3月12日
・副島大使一行、横浜発。19日、鹿児島立寄り、西郷隆盛と会見。21日、鹿児島発。31日、長崎経由で上海着。
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3月12日
「新次郎魚代金渋事件」
巨椋池での漁で生計を立てている山城国久世郡一口村の岸喜左衛門ら11人、魚仲買人鎌田新次郎ら4人に渋滞している魚代金支払いを命じて貰いたい旨の「口上書」を京都府淀出張所に提出。
22日、淀出張所は双方を呼出し、新次郎が月賦返済することで決着。
30日、双方が淀区裁判所に呼出され、訴えは裁判所に出すべきだと叱責され、所長宛詫び状を提出させられる
(淀区裁判所は明治5年11月25日淀出張所に隣接して開設。職員はもとは京都府で聴訴・断獄事務にあたっており、今は司法省の官員)。

4月5日、淀区裁判所は淀出張所に対して、権限外の訴訟受理の理由を問う。
12日、再度問合せ。
16日、淀出張所より、訴えがあり事情を聴いた、和解できないものは裁判しに廻すが、訴えを聴くことが何故「権限外」か、と回答と質問。
17日、淀区裁判所は京都裁判所へ判断を仰ぐ。
19日、京都裁判所長北畠治房が京都府知事・参事に本件承知しているか問合せ。即日、淀出張所の対応は承知している、淀区裁判所が双方を叱責、詫状を出させるのは穏当ではない、と回答。
20日、京都裁判所は京都府へ、原・被告の和解は裁判所の権限、呼出して和解できない場合は裁判所に廻すとの見解の真意を問質す。
25日、京都裁判所北畠所長、京都では「地方官が民権を制圧する旧弊を守り、・・・司法がもうけられたことを人民に知らしめない」、これを問わないのは司法権独立に係るため「京都に臨時裁判所をひらくべき」と、司法省に伺う。
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3月14日
・外国人との結婚が許可
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3月14日
・浦上キリスト教徒解放の指示がでる。 
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3月18日
・司法少判事児島惟謙(大阪在勤)、賭博罪廃止「伺」を司法省に提出。処罰が不均衡。
4月3日、司法省「指令」で児島の意見否定。
18日、再度「伺」提出。
翌年1月11日、司法省「指令」、児島の指摘に答えることなく、賭博罪廃止意思はないと回答。
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3月20日
・天皇が断髪する。
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3月27日
・マルクス(55)、イギリス連合委員会とコンミューン亡命者が開催するコンミューン記念祝賀会に出席。
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3月31日
・ペルー国使(海軍大臣を特命全権)来日。マリア・ルーズ号事件の損害賠償要求。
6月14日、政府、ペルーへの賠償拒否。
25日、アメリカ公使の仲介によりロシア皇帝アレクサンドル2世に仲裁依頼。
明治8年5月29日、賠償責任なしの判決。
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4月
・三井組他東京・大阪の商人、朝鮮・釜山進出
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・東京京橋、西洋料理精養軒、開業。
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・仏、補欠選挙で急進派の進出。
4月、パリでティエール側近レミューザと急進派バロデが対決し、バロデが勝利。
5月、ロワール・エ・シェール県で急進派が穏和共和派に勝ち、この時の補欠選拳では4人中3人が急進派となる。
急進派は穏和派と比較してより明確な政治目標を掲げる
(政治犯特赦、戒厳令解除、議会解散、宗教・国家の分離、世俗・無償・義務初等教育、地方自治等)。
政治目標は急進的で、王政派とは対立するが、穏和共和派との違いは大きいものではない。
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4月初め
・西郷隆盛、鹿児島よりようやく帰京
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4月1日
・守山茂の後任広津弘信、朝鮮在勤のため草梁着。外務省宛、現地の反三越の空気強く渡航停止を要請。
21日、外務省の停止措置が間に合わず、21日、三越一行、釜山着。
5月3日、朝鮮側、三越一行の物資搬入制限。
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4月1日
・児島惟謙、大阪地裁へ転勤。大阪築港問題を処理。
大阪府権知事渡辺昇、富豪住友吉左衛門・鴻池善右衛門らに大阪築港計画実施のため300両の献金強要。府民の負担も大で、訴訟となる。結果、築港計画停止。5月5日、児島、司法省裁判所民事課詰となって帰京。
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4月1日
・京都裁判所、京都府庁門内より御所南門前旧有栖川官邸へ移転。同日、司法省中解部(10等官)犬塚重遠、京都裁判所聴訴課長就任。
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4月1日


・府県裁判所・区裁判所に検事局がおかれる。
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4月8日
・豪商小野組、京都府庁へ転籍願提出。7代目小野善助(42)、総支配人小野善右衛門(47)連名。
2日前には小野組分家で神戸・大阪支配人小野助次郎(43)が攝津・神戸へ転籍を願いでる。
京都府参事槇村正直は木戸の腹心。小野組の公納金は京都府の金づる(地方官のふところに入ったり、木戸の政治資金の可能性もある)。
また、小野組と商売敵の三井組を槇村と同じ長州の井上馨が肩入れしており、これの足を引っ張ろうとする側面もある。
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4月10日
・官吏が公務・外交を妨げる内容を新聞に掲載することを禁止。
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4月11日
・元幕府講武所師範榊原鍵吉、剣術衰徴を憂い剣客を結集し、浅草左衛門橋で「官許撃剣会」と銘打つ「興行撃剣」を行う。
浅草の後、横浜、栃木に巡業。榊原の門下生で尾張藩草莽隊の元磅磚隊員赤松軍太夫は、草莽隊員に呼掛けて名古屋で興行撃剣を組織。7月26日、興行。
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4月12日
・井上馨、地租改正法案審議の地方官合同、開催。大蔵省指令による禄制画一化に不安の声。
延期を経て、29日再開。
華族禄制は正院で審議するので、大蔵省は士族禄制審議のみとするなど正院の介入、議員間での紛議のため、井上は会議を打切る。
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4月13日
・大久保利通、マルセイユで乗船。木戸は帰国命令に服さずロシアに向かう。
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4月18日
陸軍大輔山県有朋、辞職
29日、西郷の尽力により、陸軍御用掛(陸軍卿代理)で復活。
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山県は、山城屋和助事件だけでなく、同様の三谷三九郎事件でも疑惑。
旧長州藩御用達で陸軍省御用商人となった油商三谷三九郎にまつわる陸軍省公金35万円費消事件。発覚後、三谷には返済能力なく、三谷の所有地を三井組に譲渡して処理。三井は大儲け、三谷は没落。三井と山県・井上が仕組んだとも疑われる。
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司法省も三谷事件には注目し、事件の展開次第では山県没落の恐れもある。
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またこの頃、陸軍少輔西郷従道も省務を離れて洋行したいと言いだす。陸軍省の機能停止の恐れもあり、西郷は大隈参議・井上大蔵大輔と連絡をとり、山県の辞意撤回に心を砕く。
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4月20日付け西郷の従道に宛てた手紙。
洋行延期を求め、「御国より老先生杯(ナド)出掛け相成り候事に候えば、陸軍省の混雑は却って勢いを付け侯場合に相成り侯あいだ、是以て恐るべき次第に御座候。副城公を初め其の外下々に至り侯ても、只恐ろしきものは兵隊のみの事に御座候」と述べる。
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近く島津久光(副城公)が旧士族多勢を率いて上京するので、西郷は、それに備えて陸軍省の安定を望む。西郷によれば、久光らの勢いを圧倒できるのは「兵隊のみ」である。
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4月19日
・左院議長後藤象二郎・司法卿江藤新平・文部卿大木喬任、参議に任命
予算を巡る混乱は正院の各省統率能力が弱体であるため。政府中枢強化。
参議は他に木戸・西郷・大隈・板垣。薩長出身者は西郷・木戸のみ。土佐・佐賀出身者に比重が偏る。5月2日、太政官「潤色」。
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4月21日
・副島大使一行、天津着。
30日、副島外務卿・伊達全権、清側全権李鴻章との間で調印と同文のまま日清修好条規批准書交換
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4月23日
島津久光、鹿児島士族250人率い上京
29日~5月1日、近衛兵の大演習で対抗。
久光は、新政反対・礼式復旧・士族復権・人事交代(西郷罷免)など建言。
政府は、天皇の久光謁見、邸宅贈与、久光邸臨幸、久光の子珍彦を侍従にするなど対応。5月10日、久光、麝香間祇候就任承諾。
旧体制復活を期待した随行の旧鹿児島士族は失望。薩摩系近衛士官の威嚇もあり、1ヶ月後退京。
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久光の一大デモンストレーション。
彼らは、結髪帯刀し、異常な関心を集める。保守的な風潮を強め全国の守旧派を勇気づける。
『新聞雑誌』第119号は、「今般薩州人多ク上京セシヨリ、刀屋研屋気力強クナリ、店カザリ立派ニイタシ、ヤタラニ刀剣ノ徳威ヲ自賛セリ、笑フべシ欺ズべシ」と報道し
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4月29日
・西郷、天皇を擁して千葉方面で近衛兵の大演習
(西郷が雨中徹夜で天皇のテントを護衛したエピソード)。
天皇は近衛兵2,800を騎馬で親卒、下総大和田村に行幸、テントに野営。
30日、対抗演習。この演習臨幸にちなみ、習志野と名付けられる。
この年の天皇の操練は、毎月3・5・8・10の日が大隊操練、2・4・7・9の日が小隊操練の日で、ほぼ毎日操練。
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「★一葉インデックス」をご参照下さい。
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